ハーメルン
大神紅葉は防人である
諏訪へ3

ずるり、と蕎麦を啜る。

口の中に入った蕎麦をゆっくりと咀嚼し、その風味を、味を楽しんでいく。なるほど。

「――美味しい」

「でしょうっ?!」

モミジの言葉に、歌野はテーブルに身を乗り出して目を輝かせる。そして、あれやこれやと蕎麦の魅力を語りだした。
そんな歌野を見て苦笑しながら水都がごめんね、と言う。


「うたのん、二人が来るってなった時から、蕎麦を食べてもらうんだーって、一生懸命で」

「そうなのか。いや、でも初めて食べたよ、こんなに美味しい蕎麦」

「本当に。付け合わせの天ぷらとつゆの相性も抜群」


隣で綾乃が野菜たっぷりのかき揚げを食べる。サクサクとした衣の音に、シャキシャキと聞こえる野菜の瑞々しさが食欲をそそる。

これら全てが白鳥さんの畑から取れたというのだから驚きだ。勇者として諏訪を守って、そして畑で食料も自給自足して。衣食住全てを主に神樹任せにしている四国とは格が違う。


「はー、美味しかったぁ……」

「ご馳走さまでした、美味しかったです」

「お粗末様。そう言ってもらえて嬉しいわ」


久々のちゃんとした食事ということもあったが、かなり満足のいく食事だった。ふんふんと上機嫌で片付けていく白鳥さんに、思わず待ったを掛ける。

「片付けくらい手伝うよ、そこまでして貰わなくとも……」

「良いの! モミジさん達はお客様なんだから。それに四国からここまででしょ、遠慮なくゆっくりしてて」

半ば強引に席に座らされると、入れ換わりに水都が食後のお茶とお茶菓子を持ってきた。手作りの野菜を使ったお菓子だそうだ。

へぇ、とカボチャの薄い切り身を手に取り齧る。カボチャの甘い風味が口一杯に広がった。


「それで、諏訪への“道”の接続は何時にしますか? 準備は出来てるので、いつでも行けますよ」

「そうですね。……神託の時間が、夜間に来るものが多いので夜間にお願いしたいんですけど……」

「では、今夜にしましょうか。申し訳ないんですけど、身を清める場をお借りできればと」

「あぁ、それは勿論。直ぐに案内しますね!」


善は急げと、綾乃と水都は移動してしまった。時折聞こえていた水の音が不意に消える。手をタオルで拭きながら現れた白鳥さんに、綾乃達が出たことを伝えた。

「お風呂に行ったって事ね、理解出来たわ!」

「後で男湯か、どっか身体を洗える水場を貸してもらえないかな」

「それは勿論だけど、何だか性急ね」


頭に?を浮かべる白鳥さんに、俺は苦笑いして言う。


「そりゃ、神様に会うからさ」


〰️〰️

不浄。
神というモノは特に、汚いものを嫌う者が多い。

神職に就く者が単一な色の作務衣や、絢爛な色合いの行衣等を着る理由は、“汚い”という印象をさせないため、とされる理由もある。


諏訪大社、本殿。
時間は深夜、耳を澄ませば鈴虫の綺麗な羽音が聴こえる。蝋燭の灯火以外の光源が無い空間で、俺達四人は集まっていた。

「――――」

水都の祝詞が、空間の静寂から浮き出る様に告げられる。染み渡るようなその声音は、なんだか子守唄のようにモミジの意識をしずめていく。

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