諏訪事変3
――夢の事が、本当になっちゃった。
蔵の中で息を潜める少女、望月梓は懐で震える弟妹分を大丈夫だよと優しく撫でながら焦っていた。
梓の直感は良く当たる、とは、大して頼りになりそうにない棒きれを勇ましく構える諏訪のガキ大将、サトシの言葉である。足が生まれたての小鹿の如く震えてはいるが。
物音はしない、だが必ず居る。元々空中を浮遊している奴等なのだ。物音立てず忍び寄るのは得意な事だろう。
「う、歌野ねーちゃんはまだ来ないの……?」
「大丈夫だよ。四国から来てくれた人も居るから、必ず来てくれる」
「……うん」
目に涙を溜めて堪える少年をあやしつつ、梓は蔵の扉へと視線を送る。
此処に人が居ることは分かっている筈だ、何故扉を壊して入ってこない?
一応逃げ込んだ時のため、要所要所に防御用の結界札を貼ってあるのは知っている。普段から勇者の補佐に就いている水都があーでもないこーでもないと、諏訪大社の大人達と相談しているのを見ていたからだ。
だが、そんな防御結界でもあの白い化け物には通用しないというのは、梓は身をもって知っていた。
――梓、お前だけでも逃げろ!!
――大丈夫よ、後で必ず会えるから
――お父さん、お母さん!!
伸ばした手が届かなかった事を思いだし、振りきるように頭を振る。最悪の想定をするな、今はこの子達を守るのが自分の仕事だ。
歌野と水都から、小さな子供の面倒を見てくれと良く言われる。別に厄介事を押し付けられている訳ではないことは、梓はよく知っている。
二人は忙しい。諏訪の大人達も、明日の為に今日を懸命に動いてくれている。ならば、皆が安心出来るよう振る舞うのが自分の役割なのだろう。
「梓、外はどうなのかな」
「……分からない、でも開けたら不味い気がする」
「まだ居るってことか?」
サトシの言葉に、うーんと頭を捻る。
其処に何かは居る、確証はないが気配がするからだ。
だが、諏訪大社での避難生活を始めて以来、何かの気配を感じる事が多かった。それは妖怪かもしれないわ、とは、悪戯心の芽生えた歌野の言葉であるが。
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