演目 "売国的愛国者"
帝国にとって前大戦は『割に合わない』投資と化して久しい。莫大な戦費を費やし、国家の労働人口たる若年層をごっそりと大地にぶちまけたのだ
ノルデン紛争を勝ち抜き、協商連合を叩き潰し。帝国包囲を打破する有用債券となる筈だった。それが失敗し、不良債権となった今、必死に取り返そうと条約の白紙化を成そうなど虫酸が走る
しかも愚行を犯しているのは、貴重な人的資源であった帝国軍将兵が己が命を削りながらも死力を尽くして守った帝国臣民諸氏なのだから笑えない
(こんなやつらの為に私は泥地獄を戦ったのではないぞッ!)
「何としても情報漏れの元凶を叩かねばならん。急ぐぞ」
「は、はい!」
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▲ 帝国 ベッケンヴォルデ士官学校 学長室
帝国国内に数ある士官学校の中で多くの秀才を育成・輩出しているベッケンヴォルデ士官学校にて年若い女性候補生が学長室へ呼び出され、渋顔の学長から下された命令に困惑の表情を隠せずにいた
「候補生。配属先に変更があった。首都第2連隊へは赴かなくてよろしい」
「はっ!」
学長は書類に目線を傾け、困惑顔の候補生へ向けて同情にも似た声質で淡々と続ける
「首席には配属先を選べる慣例があるが、慣例は慣例に過ぎん。……軍とは上から命令されれば否応なしに従うしかないのだ。軍の理不尽さを一つ学べたな候補生」
「ッ……」
「あぁ、安心しろ。栄転だ。形式的にはともかく実質的にはな」
何とも言えぬ表情を浮かべた候補生に学長は諭すように伝える
まぁこれからの彼女の苦労を思えばとても喜べたものではないだろうが……
「明朝9時までに法務局に出頭するように詳細は辞令を読め以上だ」
「はっ!」
書類の入った封筒を差し出され、候補生はそれを受け取り僅かに逡巡しながらも敬礼し、退出する
それを見送りながら煙草を取り出し火を点ける
「オペラ座の狂人共め、遂に青田刈りか。参謀本部も参謀本部だ。よりにもよって首席を辞令一枚で一本抜きか」
煙草をひと吹かしして新聞に眼を向ける
そこには形容し難い不快な文言が羅列されていた
『国民置き去り!退役軍人手当て増額か!?』
『弱腰外交の露見!不服溢れる調印式!』
『条約反対派宰相官邸襲撃!国内情勢不安定加速!?』
『宰相官邸で銃撃戦!軍が対応!?』
「……オペラ座、必要悪か。だが行動主義者の排外主義もいかがわしいが、協調主義者の妥協も同じ穴の狢だ」
国内の混乱、国民の不満、軍人の質の著しい低下
懸案事項は帝国建国以来、類を見ない程 山積している
ここ最近の参謀本部の動向も怪しい事この上ない
「……軍はどうなるのだ?」
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