祖国の命運Ⅰ
▲ イルドア・帝国国境山岳鉄道 山岳列車会議室
ベ・ルーヌ駅を出立してからしばらく経った頃
レルゲン・ギルベルト両名は改めてカランドロ大佐と対面していた
「では、御話をお聞かせ願いますか」
部屋で三人が椅子に腰を落ち着けると
ギルベルトが満を持して問いかける
「この部屋での会話が外に漏れる事はありまさせん。防諜は万全に。勿論ここでの会話は我々が直接、参謀本部へ届けます」
レルゲンもカランドロ大佐へ
安全性と会話の保全を約束する
そんな二人に珈琲を堪能したとばかりにティーカップを下ろし、にこりと微笑んだカランドロ大佐は何気ない口調で爆弾を投じる
「では、まず私の立場から申し上げよう。私はガスマン大将の特使です」
カランドロ大佐から放たれた言葉をある程度予期していたレルゲン中佐等だったが、いざとなると言葉が見つからず沈黙してしまう
イゴール・ガスマン大将という人物の事は
イルドアに赴くに際して行った情報収集
軍・政府の関係者リストで目にしていたが……
余り表で目立つ人物では無かったらしく
資料が少なく
情報局を酷使して情報をかき集めたが
どういう人物か要領を得なかった
「是非とも、帝国軍の友人諸君とは腹を割って話さねばならぬことがある。率直に言えば我々、イルドア王国は、目下の情勢をひどく案じているのですよ」
「その……御気分を害さないで頂きたいのですが、何故貴国が案じる必要があるのでしょうか?」
思わずとギルベルトが声をあげる
カランドロ大佐の言葉を聞いたレルゲン等に浮かんだのは純粋な疑問だ
なぜ?と
一連の講和・条約締結の為のプロセスはイルドア・合州国が推進し、帝国と各交戦国の利害が一致した事で行われた
いわば損得論に基づく物だ
イルドアは未回収のイルドア領土の交渉や対帝国交戦国に恩を売るなどの一定の利益の為に動いていると思っていた
「繰り返しお話している通り、我々は善隣友好政策を唱えて久しい、前提を申し上げれば。我々、つまるところイルドア王国は、帝国の崩壊を積極的に望んでいません」
その言葉は意外以外のなにものでもなかった
「消極的に望まれる理由を伺っても?」
「これは痛烈なご皮肉だ。ご存じのことだとばかり思っておりましたが。ルーシー連邦。詰まる所、共産主義者共ですよ。レルゲン中佐」
コミュニズム、労働者革命、コミュニスト
権力者を許さず、資産家を圧制し、平等の世界を求め、武力に寄る革命を是とするナショナリスト達
「連邦と友好を築いている貴国が敗北すれば連邦が自ずと保護の為とイルドアの頭上へ進出してくる。我が国としてはそれは大変困るのですよ」
「つまりは、我々帝国は共産主義者達への防波堤と?」
すかさずとギルベルトが怪訝な表情で問いかける
しかし、それも仕方ない事でもあった
帝国は生来、皇帝陛下をトップとした『君主制』であり、ルーシー連邦の前身である
ルーシー帝国とは長きに渡る友好を謳歌していたのだが、
ウラージミル・レーニン率いる赤軍が革命の波をルーシー帝国国内に伝播し、ルーシー王室の崩壊を持って『共産主義体制』へと移行した
[9]前書き [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク