第17話
車を降りると、濃密な草の匂いがした。
やや開けた場所にはバスが数台止まっている。千葉村の駐車場だ。平塚先生はそこに車を止めた。
「んーっ! きっもちいいーっ!」
由比ヶ浜は車から降りると思いっきり伸びをする。
「……人の肩を枕にしてあれだけ寝ていればそれは気持ちいいでしょうね」
「う……ご、ごめんってば!」
雪ノ下にちくりと言われて、由比ヶ浜が両手を合わせて謝っていた。
「うむ、空気がおいしいな」
そう言って平塚先生は煙草を吸い始める。それで空気の味わかるのかしら……。
「ここからは歩いて移動する。荷物を下ろしたまえ」
すぱーっと実にうまそうに息を吐いて、平塚先生が言った。
指示の通り、車から荷物を降ろしていると、もう一台、ワンボックスカーがやって来た。はぁ、なんかキャンプ場とかもあるし、意外に一般のお客さんも来るんかね。
車から下りてきたその一団の一人が俺に向かって軽く手を挙げた。
「や、ヒキタニくん」
「……葉山か?」
意外なことにその集団の一人は葉山だった。いや、葉山だけではない。よくよく見れば葉山グループが揃ってきている。……あれ?童貞風見鶏の大岡は?
「ふむ。全員揃ったようだな」
全員、ということは葉山たちも最初からメンバーに入れられていたということだろうか。
「さて、今回君たちを呼んだ理由はわかっているな?」
問われて俺たちは互いに顔を合わせる。
「泊りがけのボランティア活動だと伺っていますが」
「ああ、その手伝い、だよな」
雪ノ下の言葉に拓也がうなずいた。その横で由比ヶ浜がきょとんとした顔になる。
「え?合宿じゃないの?」
「小町、キャンプするって聞いてますよー?」
「そもそもなんも聞かされてねぇんだけど……」
おい、どれが正解だ。お前ら伝言ゲーム下手すぎるだろ。
「奉仕活動で内申点加点してもらえるって俺は聞いてたんだけどな……」
葉山は苦笑混じりの笑顔で言った、
「え、なんかただでキャンプできるっつーから来たんですけど?」
「だべ?いやーただとかやばいっしょー」
三浦がくるくる髪をみょんみょん引っぱり、戸部が長い襟足を搔き上げる。
「わたしは葉山くんと戸部くんがキャンプすると聞いてhshs」
海老名さんだけ理由がおかしい。最後なんて言っんだよ。
「ふむ。まぁ、おおむね合っているしよかろう。君たちにはしばらくボランティア活動をしてもらう」
「あの、その活動内容は……」
「なぜか私が校長から地域の奉仕活動の監督を申し付けられてな……。そこで君たちを連れてきたわけだ。君たちには小学生のサポートスタッフとして働いてもらう。簡単に言うと雑用ということだな」
帰りてぇ……。ブラック企業だって最初はもうちょっとオブラートに包んでるもんだぜ。
「奉仕部の合宿も兼ねているし、働き如何では内申点に加点することもやぶさかではない。自由時間は遊んでもらって結構」
ははぁ、なるほど。みんなそれなりには理解しているのね。
「では、さっそく行こうか。本館に荷物を置き次第仕事だ」
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