13話 翡翠の公都Ⅳ
「それにしても意外だな」
夜のバリアハートの街を歩きながら、隣を憮然とした様子で歩くユーシスにリィンは声を掛ける。
「何のことだ?」
「わざわざ散歩なんて言い訳をしてレーグニッツを探すなんてユーシスが言い出すとは思わなかったよ」
「勘違いするな。俺はせっかく地元に戻って来たから、散歩をしているだけだ」
「そうか……」
リィンは追及せずにユーシスの言葉に頷く。
その態度がまるで見透かされているようでユーシスは顔をしかめる。
「どちらにしろお前も探しに行くつもりだったのだろう?
あんな男でも今は同じ班員。ましてやバリアハートの市民に迷惑を掛けるのなら許すわけにはいかないからな」
「流石に今のレーグニッツはそこまではしないと思うけどな」
「……この一ヶ月、散々絡まれてきた男の言葉とは思えないな」
リィンのお人好しさにユーシスは呆れるが、何もリィンは根拠もなくそう思っているわけではない。
マキアスの中にあった《鋼の至宝》の《呪い》はあの瞬間リィンが取り込んだ。
これまでは歯止めが利いてなかった言動もそれで少しは治まると思っていたのだが、クルトがそうだったようにマキアスは罪悪感に苛まれてしまったのだろう。
まだあれからちゃんと顔を合わせていないユーシス達がそれに気付かないのは無理もない話なのだが。
「まあ、確かに鬱陶しくは感じてたけど、だからって自殺なんてされたくはないからな。ユーシスだってそれは同じじゃないか?」
「否定はしない」
いくらソリが合わないからといって、死んでもらいたいと思うほどではない。
オーロックス峡谷道ではとりあえずマキアスが魔獣に襲われた形跡はなく、バリアハートでの聞き込みから街には戻ってきていることは分かった。
そしてマキアスはシスターに保護されていたということも聞き、リィンとユーシスは七耀教会に向かっていた。
「ところでリィン……話は変わるがオーロックス砦の侵入者について何を知っている?」
「いきなり何を言っているんだ?」
本来なら演習場から姿を消したところで、各所に見張りがいる砦からマキアスが抜け出すことはできないはずだった。
しかし幸か不幸か、マキアスを探しているとオーロックス砦に侵入者を知らせる警報が鳴り響いた。
騒然とする砦で、部外者であるリィン達は一室で待つように指示されてマキアスを探すどころではなくなってしまった。
結局、賊には逃げられてしまったそうだが、その目撃情報には心当たりがあった。
「俺が兵士達から聞き出している時にわずかに動揺していたな。すぐに取り繕ってアリサや委員長は気付いた様子はなかったが」
「……はは、流石はルーファスさんの弟――ってこの言い方は失礼か」
「構わん。それで何を知っている? よもや特別実習を隠れ蓑に賊の手引きをしたんじゃないだろうな?」
「まさか……その子とは顔を知っているくらいだよ」
白い傀儡。姿を消すステルス。そして水色の髪の小さな子供。
もしもそれが銀髪の子供だったとすれば、特別実習をその場で放棄していたかもしれないが。
「何より直接見てないから断言はできないし、領邦軍の中でそれを言うのは憚られるからな」
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