16話 魔都Ⅰ
《D∴G教団》。
それはかつてゼムリア大陸全土に存在していた、女神の存在を否定する狂気の教団だった。
各国から多数の子供を誘拐して《儀式》と称して非道な実験を行い、そのあまりにも凶悪な在り方に各国の警察や軍隊、遊撃士協会が共同戦線を張って殲滅作戦を行う程だった。
しかもそれだけにはとどまらず《結社》や《星杯騎士団》までも秘密裏にその作戦に協力する程にその教団はあまりにも度が過ぎていた。
六年前、ゼムリア大陸各地に点在する《D∴G教団》の拠点に対して一斉に襲撃作戦が決行された。
各拠点での戦闘は熾烈を極め、捕縛された信者の大半が自決し、更に《儀式》の犠牲になった子供達の無残な遺体が大量に発見される、まさに地獄絵図そのものの光景が繰り広げられた。
この作戦によって本体を崩壊させることができたのものの、《教団》そのものは完全に潰すことは叶わなかった。
そしてその生き残った《教団》の司祭がクロスベルの地で再起を図っていた。
*
「クルト、もう良いっ! 俺達のことよりもキーアを連れて逃げてくれっ!」
「馬鹿なことを言わないでくださいっ!」
IBCビルの前、クルト・ヴァンダールは魔導剣を固く握りしめてロイドに言い返す。
「はははっ! 逃げても良いがそんなことをしたら彼女たちがどうなるか分かっているかな?」
ロイドの背後で警備隊の女性が自分のこめかみに導力銃を突きつけながら醜悪な笑い声を上げる。
女性は《D∴G教団》の司祭を名乗る男に何処からか操られてきた被害者。
そしてそれは彼女だけではなかった。
彼女の背後にずらりと並ぶ警備隊員は一様に空ろな顔をしていていつでも自害できるようにされていた。
「っ――っ……」
さらにはクルトの背後でエリィが導力銃を顎下に突きつけて抵抗するように体を震わせていた。
「クルト遠慮はいらない! 俺達を倒せっ!」
そう言いながらランディがスタンハルバートをぎこちない動きでクルトに向けて振り下ろす。
「くっ――」
余裕をもってクルトはランディの一撃を避ける。
「もうやめてっ! 行くからっ! キーアが行くからもうやめてっ!」
「ダメですキーア! 中に入っていてください」
クルトの背後、IBCビルの玄関先でキーアが泣き叫び、ティオがそんな彼女を抱き締めて押し留める。
「っ――」
「おっと《風の剣聖》殿、不用意な行動は慎んでもらえるかな? 私もこんな幼気な子供の手を血で汚させたくはないからね」
「貴様……シズクの声でしゃべるなっ!」
彼らの傍らに棒立ちすることを強いられているアリオスは自分の目の前に太刀を抱えるようにして立ち塞がる娘に目を伏せて呪詛を吐く。
シズクの身体や警備隊、さらにはクロスベルで暴れているマフィアに魔獣を操る者こそが《D∴G教団》の司祭、ヨアヒム・ギュンター。
表向きは聖ウルスラ医科大学の准教授だった彼は《グノーシス》と呼ばれる《教団》が造り出した薬を使って、マフィアの《ルヴァーチェ》、ベルガード門の警備隊を傀儡にした。
しかし、それだけに留まらず。医科大学の職員たち。
そして裏の顔を知らずに《グノーシス》の成分を調べて欲しいとやってきたロイド達は飲み物に混ぜる形で《グノーシス》を摂取させられた。
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