ハーメルン
阿修羅の牙
第五話 愛

―――――アメリカには、二つのペンタゴンがある。
一つは、誰もが知るアメリカ合衆国国防総省。
見た目故か。それとも表のエリートが集まるからなのか。
またの名を『ホワイト』ペンタゴンと人は呼んだ。
そしてもう一つ。アメリカにはペンタゴンと呼ばれる存在がある。
建物の形が五角形だからなのか。
それとも、『犯罪(うら)』のエリートが集まるからなのか。
それはわからないが、ここ、州立アリゾナ刑務所が『ブラック』ペンタゴンと呼ばれていることは確かだった。

その中に、『合衆国の恥部』と呼ばれる男が居た。
ブラックペンタゴンに収容される凶悪犯。その大半をたった一人で捕獲し続けている男。
刑務所には彼専用の監獄があり、エアコン、冷蔵庫、大型テレビ、屏風などだけでは飽き足らず名画っぽい絵や彫刻までもが廊下にまで所狭しと置かれている、受刑者でありながら、超VIP待遇の男。
受刑者でありながら刑務所を自由に出入りし、実質彼の監視体制は人工衛星に頼るしかない。法の外に君臨する誰にも繋ぎ止められぬ男。
アメリカで一番喧嘩が強え男。
その男の名は『ビスケット・オリバ』と言った。


「かけたまえ。」

太い男であった。
首も。
足も。
胸も。
声も。
何もかもが太い。
特にそのアロハシャツからはみ出る腕の太さときたら、女性のウエストどころではない。
しかし、デブではない。
筋肉だ。この男、それ自体がとてつもなく巨大な筋肉の塊である。

「君の彼女の部屋程…とはいかないだろうが、リラックスするといい。」

『ビスケット・オリバ』であった。
その男が今、一人の男に着席を促していた。

「理乃と出会ってから金持ちの部屋には慣れているはずだったが…
ここは今まで見た中でも一番だな。」
「ハハ…照れるな」
「Mrアンチェイン…招待してくれたこと。そして、相談に乗ってくれたこと。
感謝している。」

アンチェインに頭を下げる若い男。
前髪を二つ、大きく分けた髪型に、黒い上着、白いシャツとジーンズ。
美麗な顔立ちをしたこの男の名は御雷零。暗殺拳・『雷心流』の現当主にして、拳願トーナメント準決勝進出者。
アメリカ最強の男と、若き暗殺拳の当主。
立場も、境遇も、年齢も、人種も、何もかもが違う彼らを結び付けたもの。
それは一重に愛の力であった。

事の発端はある女のひと言だった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「零、アメリカに行きましょう。私のお友達に、零のことを紹介したいの。」

夕食を終えた部屋の中で、女が零に向って唐突に切り出した。
可憐で、妖艶な女であった。
胸元が大きく開いたワンピースに、金色の巻いた髪の毛。
男ならば誰しもが魅了される。
女の名は倉吉理乃。ゴールド・プレジャーグループの若き総帥にして、零の恋人。
その女が今、零の隣に座って腕を絡ませながら、笑って甘えてきていた。
零の答えは決まっていた。好きな女にこう、愛されて断れる男ではない。

「構わないよ。理乃が行きたいなら、俺もついていくさ。」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/9

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析