とある学校の敷地内の学生寮でチェスによる対戦が行われている。
「チェックメイト」
俺はチェスの駒を持ち、相手のキングの横に置く。
それにより相手の敗北が決定した。
「まさか本当に負けるとは思ってもみませんでした」
対戦相手の少女は驚きを隠せずに目を見開いてしまう。
少女の名前は坂柳有栖。肩までの短い銀髪は強い特徴になっている。
名前の通り不思議な国から来たかと思うかのような存在感だ。
今までに出会ったことのない可愛さと美しさをもっていて、儚げな様子はどこか守ってあげたくなる雰囲気をかもし出している。
「でも運が良かったよ」
本当にギリギリの戦いで、俺が負けてもおかしくはない戦いだった。
「いえ、チェスに運など存在しませんよ」
確かにチェスは二人零和有限確定完全情報ゲームだ。
運という、偶然が差し込む余地のないゲームにおいて、理論上、必勝法は明確に存在する。
だがそれはあくまで理論上の話。
10の120乗という膨大な局面を把握できた場合の話である。つまりは、事実上ないに等しい。
「人間に全ての局面を計算できるわけがないから、少しくらいは運の要素があると思うけど」
「それを計算できるのがあなたではないのですか?」
「そんなの無理だ」
そんなのができるのはアニメや漫画の世界の人間だけだろう。現実の人間では不可能だ。
「でも流石はホワイトルームの出身者ですね」
その言葉を聞いて、俺は眉間にシワが寄る
「前も思ったが、どこで聞いた?」
「それについてはお答えできません」
俺はそうかと呟いてチェスを片付ける。
俺が坂柳と出会ってから2週間がたった。
お互い東京都高度育成高等学校の1年生で、同じクラスになったのがきっかけで知り合った。
でも坂柳は以前から俺のことを知っていたようで、入学初日から絡んできた。
儚げで守ってあげたくなるような容姿なので、最初は声をかけてくれて嬉しかったが、本来の性格は冷徹で攻撃的。華奢な身体からは想像がつかない程だ。
何でこんな性格になったかはわからないが、どうしても俺と勝負をしたいらしくて、毎日のように絡んでくる。
「それで坂柳は俺のものってことでいいのかな?」
「ええ。たった今から私は水無月遼くんのものです」
この勝負にかけたのは、お互いの全てだ。
あまりにも俺に挑発的な態度をとってくるので、冗談で全てをかけてくれるなら勝負すると言ってしまった。
だが、坂柳は冗談と思ってくれなかったようで、それで了承をしてしまう。いや、冗談とわかっているが、俺と勝負したいからのったのであろう。
「別になかったことにしてもいいんだけど」
あくまで俺は冗談で言ったのだから、特に坂柳を自分のものにしたいとは思っていない。
「それはダメです。私の顔に泥を塗る気ですか?」
坂柳はプライドか高いためか、勝負をなかったことにするなんて、絶対に許さないようだ。
[1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク