Page ? 「知覚されざるその場所で」
―――昼下がりの穏やかな午後、だと思う。
いつの間にやら自分は西洋の街並みの中で、恐らく公園だと思われる敷地内のベンチに腰掛けていた。
目の前の道路を外国車が時たま通過していき、歩道を黒、茶、金といったカラフルな髪の色をした西洋人達がせっせと歩き去っていく。
走る車の運転席や、通り過ぎる人達を観察しても、同じ国出身と言えるような人間は誰一人居ない。
まるで、異国の中に一人置き去りにされた迷子みたいだな―――と、呑気にこの現状を結論付ける。
ここで騒いでもどうにもならないだろう。まず言葉通じないだろうし。道を尋ねても無駄そう…。
果報は寝て待てと言うし、何か立ち上がるのも面倒だし、このままぼーっとしてよ…。
現状放棄のスタイルを決め、縁側のジジババよろしくベンチで日向ぼっこを開始。
右も左も分からんけど、このベンチ気持ち良いな…。日光が丁度いい角度で当たって、ポカポカするんですわ。
あー、もう。帰る方法思い付かんけど、どうにでもなーれ。
それからしばらく半目状態でベンチを陣取っていると。
少し日が傾き掛け、恐らく薄暮に差し掛かろうとした時間に。
「……………………………」
ふと気配を感じ目線を上げる。
そこには、いつの間にか黒髪の小さい男の子がこちらを凝視しながら突っ立っていた。
右手には、何か本の様な物を持っている。表紙には英語でタイトル名が書かれていた。読めないけれど、何だか良くあるアメコミ系の字体だということは察せる。表紙イラストも、何か全身スーツのガタイの良いおっさんがサムズアップしてるし。
次に周りを見てみる。公園には変わりないのだが、自分が座っているようなベンチは他に一つも見当たらなかった。
いや、小さくて見逃しがちだったが、結構遠くの方にもう一台同じ形のベンチを発見した。
男の子に視線を戻す。相変わらずこちらから目を逸らす素振りが無い。真顔のまま、その赤い瞳をひたすら向けてくる。
……あぁ、もしかして、座りたいから除けと?
もう一台のベンチは遠くにある。子供の身長と歩幅からしたら、向かおうとすればそこそこの距離を歩かねばならない。
加えて、目の前のベンチには、他人が居座っていて立ち去る気配が無い。
早いとこ手に持った漫画をゆっくり読む場所が欲しい。
だから、メンチ切って追い出そうってか?
この状況から男の子の考えている事に辿り着くも、正直この場から動く気はこちらも無い。
子供相手に大人げないかもしれないが、生憎立ち上がるのが酷く億劫だ。
なので、言葉が通じるかは分からないが、一応声を掛けてみる。
「あー……、ゲフン。…悪いけど、あっちのベンチ行ってくれr…」
ゲシッ。
言い終わる前に男の子に動きがあった。
無言無表情のまま、なんと無理やりベンチの僅かな隙間に滑り込んできた。
そのまま、不意を突かれ脱力していた自分の身を押し退けられ、ベンチの"2分の1"を陣取られてしまった。
「………えー…」
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