Page 2 「さよなら人生、こんにちは日記生」
"―――昔から、他人の本音を言い当てるのが楽しかった。
言いたくない事、言いたいけど言えない事。そういう隠された真意を暴くのが快感だった。
悪意は無い、単なる子供の遊びの一環。心のかくれんぼ。ただし鬼は僕だけどね。
大人も子供も、最初は「スゴイ」とか「テンサイ」とか笑顔で喜んでくれたけど、次第にそれは減っていき、気味の悪い物を見るような視線に変わっていった。
本当の事を言っているだけなのに、一体僕のどこが悪かったんだろう?
考えても考えてもちっとも分からなかったから、それ以上は諦めた。
誰も褒めてくれなくなってつまらないから、今度は色んな事に対して知らないフリをすることにした。
そしたらほんのちょっぴりだけ、皆が優しくなったんだ。
それからずっと『いい子』を演じているのさ。"
―――吾輩は分霊箱である。名前は既に貰ってしまった。
…日記帳を魂の器にすんなよ、日頃の出来事を書き記すもんだろこれ。本来の使い方をしろよ。つーか日記に自分のフルネームちゃっかり付けてるし。小学生かこいつは!何がトム・マールヴォロ・リドルだ、猫になってネズミを一生追いかけ回してろ!あ、ごめん、自分も今トムだったわ。
例のあの人をボロクソに貶してしまっているが、どうか許して欲しい。だってこの最悪な状況に至る原因を作った張本人なんだから、罵倒する権利がある筈である。断固として主張する。絶対譲らない。
結論から言ってしまえば、自分の身に起きているこれは現実で夢でも何でもなかった。
あれからしばらくずっとこの状態で日記帳の中に閉じ込められているが、どれだけ待っても事態が好転する様子は無い。ただいま絶賛、延々と続く暗闇に放置プレイ中である。いやそんな趣味は無いが。
どうしてここが日記帳の中だって分かるかって?自覚があるからだ。なんか、意識を集中させると見えてくるんだよね。『自分の姿』が。
一面黒しか映さない視界に、これまた同色で見難い真っ黒な日記帳が現れるのだ。この色合いさ、絶対嫌がらせだろ。視界が黒ばっかで輪郭分かり辛いわ!なんとかしろ!
視覚と同じく、この体はなんと触覚まで感じ取れるらしい。実際、先程意識が暗転した後に現状把握をしようとあれこれ頭を働かせていたら、人間の手で触られている感覚があったのだ。少し経って、その手が離れどこかに『置かれる』感触が全身を包んだ。今は背表紙の方がひんやりと冷たいから、きっと机の上にでも乗せられているのだろう。
日記帳とのリンクを意図的に切断することも可能だから、万が一日記を傷つけられるような事が起きてもこちらに痛みが伝わる事はなさそうだ。…変な奴に触れられたら真っ先に切ってやるか。
色々な試行錯誤で、日記帳の様子に限ってならば、精神集中で視覚と触覚が機能することが判明した。
視覚の働く範囲は、日記帳の状態のみ。日記帳が閉じているのか、開いているのか、裏返しにされてるのか、グシャグシャにされているのかとか。視えるのはあくまで日記帳だけらしい。何かが触れたとしても、その何かまでは映らない。人が触ったとして、『どんな手』かは視えないのだ。
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