Page 6 「ボッチモートと嘆きのマートル」
"―――どう して みんな ぼくをみ てくれない の?
も うなに もしない から 、 『いい子』で いるから
ひつよう なら なにも しら ない ばかを えんじる から
かなしい 。 くる しい。 なん で
こ ん なの お かしい
ほ んとうの ぼくを あい し て くれるひと は いない の ?
そ う だ 。
あいし て くれた かもし れ ないひ とたち も
ぼ くがす てて しまっ た。
じ ゃ あ ぼ く は
も う 、え いえんに あいされ ない 、こ ど も ?"
―――誰かが、倒れている。
木造の床の上に。自分の目線のすぐ下に。
ぐったりと力の抜けた男性と女性が、死んだように倒れている。
ブレーカーが落ちてしまったのだろうか、照明が切れてしまったのだろうか。部屋の中は薄暗くて、前髪に隠れた二人の顔はよく見えない。ただ、結構な高齢である事は判る。
不思議な事に、彼らの体には目立った外傷が見られず、流血沙汰にもなっていなかった。そのせいでどんな容態か解らない。
せめて顔色だけでも窺えたら、生死の判別が出来たかもしれないのに。
突然の病でも患ってしまったのか―――
ぼんやりとはっきりしない頭でそう結論付け、安否を確認しようとその場に屈み、一番近くに倒れている女性の方へ手を伸ばした。
何故だか、彼女は自分と近しい者であると直感が告げていた。そう、まるで母親や祖母のような。
だから、この行動に悪意なんて無い、筈だったのに。
「…………お、まえッがッ…」
声が、した。
丁度女性の体に手が触れようとする直前に、男の声が鼓膜を揺さぶった。
「…お前が、殺した…のか…ッ?」
手を伸ばしたままの体勢で、ゆっくりと声の方向へ振り向いた。
男が立っている。青褪めた表情と、喉から搾り出すような声色をこちらに向けていた。
誰が見たって解る。この男は今まさに、壮絶な恐怖の真っ只中にその身を囚われている。
「………お父さ、ん?」
不思議と、勝手に動いた口が彼を父と呼んだ。
―――あれ、おかしいな。
口に出して、気付く。
父親というものは、こんな表情で我が子と接するものだったろうか。
知識の中での"父親"という存在と、目の前のこの男の態度がどうも結びつかない。
人が倒れているというこの状況で、そんな呑気とも言える思考をぐるぐると巡らせていると。
「…ヒッ、ヒィッ…!何をッ言っているんだ…?!おッおおお前みたいなヤツは、息子でも何でも無い!!」
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