《第十一話、士郎 対 士郎》
———そこまで頑張る必要はないんだ。セイバーは女の子なんだから———
何やらセイバーが絶句しているうちに、反応したのはアーチャーだった。
「そら、マスターもああ言っているぞ、セイバー。オレとしても、君と戦いたくはない」
アーチャーは一歩、二歩、都合三歩、前に進んで——
「ここに来て、セイバーに邪魔をされては敵わないからな」
俺からみて、セイバーを眺めるアーチャーの表情は……ありきたりだけど、とても優しげですらあった。
「神髄を見せよう、セイバー。厳密には君ではないが、それでも……」
アーチャーはその右拳を胸へとかるく押し当てた。
「——————I am the bone of my sword」
見せつけるように。
或いは、ただ、誇るように。
「セイバー! これは君への花向けでもあり、そしてオレの答えでもある」
———“Steal is my body, and fire is my blood ”———
何も起きない。
変化もない。
唯、アーチャーの詠唱だけが、朗々と———
———“Unknown to death, nor known to life ”———
状況は動かなかった。
誰も何もしなかった。
ただアーチャーの声を聞き、ただ詠唱の先の訪れを———
——“Yet, those hands will never hold anything ”———
赤い外套の英雄は、胸の前で握った拳を、その中のモノまで、解き放つように———
———“So, I as play. UNLIMITED BLADE WORKS ”———
そうして、世界は染められた。
◇◇◇
———術者自身の心象風景でもって周囲の空間を侵食する大禁呪、固有結界。
三流魔術師を自認する俺でも知っている“最も到達可能性の高い魔法級事象”。
術者によって結界の内部構造がガラリと変わり、術者自身の過去や経験、そして縁などによって内部法則すらも決定される一種の極小世界。術者も含め、固有結界内に存在するすべてのものは、その結界固有の法則に無理矢理従わされる。
平たく言えば、自身の心に形を与えて、その中に術者の指定した対象を引きずり込む魔術とも言える。
ここで重要になってくるのは“術者自身の心に形を与える”というところ。つまり、今、俺たちが立っているこの世界は、アーチャーの心そのものだっていう事だ。
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