《第五話、間桐兄妹》
2月2日の冬木市深山町は、綺麗な快晴をたたえていた。
中庭の土は乾き、木々は青々と繁っている。そこから、ガラス扉で仕切られた縁側のさらに内側を覗いてみると、居間の中で騒ぐケモノたちの姿が見えるだろう。
朝食が豪華だとトラが吠え、金色のライオンは対抗するかのように米を平らげ、紫のヘビは焼き魚を呑み込む。
そんな、鳥獣戯画もかぐやという朝の大宴会を使ってやっと、藤ねえからサーヴァントたちの滞在を勝ち取る事に成功した。
「———ぅうう。なんか……遠坂さんに丸めこまれた気がする……」
「そんな事ありませんわ藤村先生。私たちの事も友達の事も、どちらの事も大切に考えてくださったのですもの、そんな先生を軽んじる筈ないじゃありませんか」
なんてやり取りを聞き流しながら、俺はひとり席を立つ。食器洗いは台所にいる桜に任せて、縁側をかねた廊下へと踏み出した。
右手には俺の自室につながる廊下。その突き当たりを左に折れたら自室が右手に有るんだが、自室を無視して直進すると突き当たりから外に出られる造りになっている。小さな下駄箱に常備してあるサンダルを履いて中庭に出ると、正面にいつも使ってる道場がある。
そこに、サンダルを脱いで踏み入った。
すりガラスを貼ってある引き戸をガラガラ開けると、一面板張りの空間に出会える。
———鍛錬自体はココじゃなくても出来るんだが、ココには神棚を飾ってあるせいか、修行効率が段違いだ。もちろん俺の勘違いという線もあるが、“鰯の頭も信心”から、誰にも言わない事にしている。そのうち本当になるかもしれないし……
道場の奥、掛け軸の前に正座して。両手は腿の上で組み、そんでもって瞑想する。
コツは呼吸をゆっくりやる事。遅ければ遅いほど効果ば高い。理想は息をしない事。息を止めたままで我慢するんじゃなくて、呼吸をゆっくりし過ぎて息をしなくなる事。今の俺には出来ないが、そこを目指して毎日瞑想をしている訳である。
ちなみに、今は日課の瞑想ではない、逃げてきたのだ。
昨日のことがあってから、上手くセイバーと話せなかったから、ひとまず雑念を消す為にココにいる。
状況を整理する為に思考すると真っ先に出てくるのが、“アーチャーとは反りが合わない”と言う事。戦闘方針から料理の腕前、皮肉げな口調まで全部が全部、癪に触る。
これは仕方ないと割り切るしかない。3日前に遠坂に言った手前、俺が癇癪をおこす訳にもいかないからな。
二つ目は料理の腕前で完敗している事、こちらはリベンジするに限る。絶対にする。俺の全勢力でもって、必ずセイバーに美味しいと言わせるモノを造る。
三つ目は深刻だ、俺がアーチャーの夢を笑った事になっている。俺自身はそんなつもりは無かったが、今思い返してみると自分でもイラッとするような言い方だった。……うん、俺でも怒る。
俺自身には聖杯に願いたいモノがない。だからセイバーの願いくらいは叶えさせてあげたいと思う。もっとも、叶えさせてあげたいなんて上から目線で何事だッ、と自分でツッコミ入れたのは随分と記憶に新しい。それでも、セイバーの願いは綺麗だったんだから、俺が応援する事は間違いじゃないと思うんだ。
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