竜に荒らされた山脈
今までとは異なる世界に突然放り出されるという大珍事が起きました。
モモンガは「それでも友と一緒だからなんとかなるさ」と
しょげそうになる心を奮い立たせて頑張って対応したのですが、
なんとその肝心要の友・火竜のスマウグは、
「なんだこれは!この臭い!この香り!この感触は!
耳と鼻が冴え渡る…お前たちの足音が、
このナザリック中の蠢くもの共のにおいが俺には分かる!
なんと愛しき腐臭だろうか!」
モモンガに起こされた途端、全てが様変わりしていた感覚に酔いしれ我を忘れてしまったのでした。
普通なら鼻が曲がりそうなアンデッドや魔物達の何とも言えぬ醜悪な香りが、
暗黒と死の髑髏王を長として戴くナザリックに属しているからなのか、
スマウグには癖になりそうな安心できる臭いとして感じられたのです。
目覚める前とは一変している様々な感覚はあまりに明白で鮮烈で、
強すぎる光が写真を焼き付けてしまうように強烈にスマウグの心を焼きました。
スマウグは惨めな人間だった時と、力と自信に溢れる今の竜である自分との差で、
もう夢と現実の違いがごちゃごちゃになって頭の中でこんがらがっていました。
「あぁ、あの世界など、人間であったことなど長くて悪い夢だったのか。
なぁ我が友モモンガ。俺が唯一上に戴くオーバーロード。
俺は今最高の気分だ。お前はどうだ?見ろ、俺のこの大きく立派な体を!
俺の恐ろしい爪を!
俺の鋭い牙を!
俺の逞しい尻尾を!
俺の勇壮な翼を!
俺はスマウグだ!
もう誰も俺をこき使うことなど出来ないぞ!
俺たちはもう自由な眠りすら奪われて毒の空気を吸い、
あのへどろの塊のような食い物を食わされるさもしい身ではないぞ!
俺たちには力が溢れている!俺たちは奪われる者ではない!
俺たちこそが奪う者なのだ!!」
体の奥底から溢れてくる力に酔いしれていました。
スマウグには分かるのです。
自分の体中を古く強力な炎が駆け巡り、
そしてこの古い炎に抗う事ができる者など何もないと。
「スマウグさん!?お、落ち着いて下さい!」
モモンガが止めるのも聞かず、高揚する心と激しい衝動のまま
スマウグは太く大きな脚で地を踏みしめ、
大きな指と爪で地を抉り掴むその感触すら楽しんで闊歩します。
金貨と財の山を巨体で吹き飛ばすと、
手足の甲の鱗の上を滑り落ちる金貨の感触は
さらさらすべすべでそれはそれは気持ちの良いものでした。
そして更に心をウキウキと高揚させると『スマウグの荒らし場』に常設されている
彼専用の巨大転移門へと烈火の如く突っ込み大きな姿を陽炎のように消してしまったのです。
「スマウグさん!!!!」
モモンガの骸骨の顔は何も変わらずに無表情で真っ白いままですが、
でもモモンガの表情は間違いなく驚きと焦りで真っ青になっています。
周囲の偵察を部下達に命じたものの、
まだまだナザリックの外の様子は掴めておらず安全は確保できていないのです。
安全第一をモットーとするギルドリーダーは、
共に異界に流れ着いた唯一の友の突然の狂行に天地がひっくり返る程動転しながらも、
かつてアインズ・ウール・ゴウンを指揮し引っ張り続けた頭脳を無理矢理回転させます。
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