王の資質があることを証明する。
その一心で、モードレッドは一日の全ての時間を勉学に費やした。
昼も夜も無く机に齧り付き、かつて王が学び、執り行ってきた施政を脳味噌に流し込んだ。
十四歳で聖剣を抜いてからの全てを、数日で学ぼうというのだ。その剣幕は、鬼気迫るという表現が最もよく似合った。
自然と、弱音が出なくなった。共に机に座るグネヴィアが睡魔に耐えかねて船を漕いでも、怒るエネルギーさえ惜しいと学びの手を止めなかった。
王を見返す為に、王から学ぶ。越える為に、全てを取り入れて昇華する。
全て、息子と認めて貰いたいが故に。
血眼になって、血管が焼き切れる程に脳を回して、父上に追い縋る。それは歪で僻んでいたが、モードレッドが初めて経験した親子の交流だった。
そんな命を燃やすような執念の学びを続けて、三日。
モードレッドはとうとう王の治世の過去を遡り終え、隈と充血だらけの目を、机に広げた書類に落としていた。そこには現在のブリテンの情報をまとめた羊皮紙が広げられている。
人口。食料の備蓄に普及率。兵士の人数にその練度。他国の動向や反乱因子といった外敵要因。つい数日前まで気にも留めなかったそれらを頭に、モードレッドは唸る。
眼前の大いなる問い……国の行く末を見極めようと、疲弊しきった知恵を振り回している。
今にも倒れそうな様子を見かねて、グネヴィアがそっと彼女の肩に手を置いた。
「……ねえモーちゃん。少し休んだらどう? 頑張りすぎは身体に毒よ」
「馬鹿言うな。父上はいつ遠征から戻ってくるか分かんねえんだ。中途半端で終わらせる事なんて出来ない。だから一秒たりとも無駄に出来ねえ」
「そうは言っても、そんなに目を真っ赤に腫らしちゃ、変装も難しいわよ。アーちゃんはどんな時でも凜々しく、格好良かったもの」
モードレッドは今もアーサー王の変装をしている。しかしその目には深い隈が浮かび、疲労で顔面に生気はなく、土気色だ。グネヴィアの言うとおり、寝不足な自分の姿は、理想の王には似ても似つかない。
グネヴィアが優しく肩をさする。その温かさは、全て投げ出したくなるほどに、たまらなく耽美だ。そう思ってしまい、モードレッドはギリと歯噛みする。
「ったかだか王の予習をしたくらいで、オレは何を……!」
「いけないわ、モーちゃん。あなたはよく頑張ってる。本当にすごいわ……だから、できない事を自分のせいにしちゃダメよ」
「……くそっ」
「ほら、おいで? 休める時に休むのも、立派な王様のお仕事よ」
グネヴィアは渋面を作るモードレッドの手を取り、ベッドへと誘った。気力の限界に来ていたモードレッドは、明かりに引きつけられる羽虫のように、彼女に引かれる。
グネヴィアの甘い言葉によって、水槽に穴が開いたように、モードレッドの身体から力が抜け、倒れるようにベッドに沈み込んだ。
シーツに埋めた頭。それがひょいと持ち上げられたかと思うと、柔く温かいものに後頭部が乗せられた。
うっすらと目を開くと、視界に大きな二つの膨らみが影を作っている。
「何してんだ、グネヴィア」
「えへへ、ひざ枕。頑張ったモーちゃんに、わたしからご褒美をあげようと思って」
「ガキじゃねえんだぞ。舐めたマネを……」
「おままごとじゃないわよ。私の愛だって、一応ちゃんと役に立つんだから」
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