プロローグ
ある日の事だ。俺は天使に出会った。
うちの家系の男どもは代々親不孝者だったらしく、どいつもこいつも戦場に行っては早死にしているそうだった。俺の爺さんの爺さんはドイツ軍と派手にやりあって死んだと聞いたし、俺がまだ学生の頃に、父親は第三次世界大戦で逝った。だから母親はいつも、お前は親を泣かせる子供にはなるな、と婆さんと一緒に口を揃えて言っていた。
そんな俺も今や立派な親不孝者だ。代々の男どもと同じく軍に入って、いっちょ前に銃を構えている。
どこもかしこも人手不足だった。人形たちで労働問題がマシになったとはいえ、それでも人間の需要が無くなることはない。最後に物を言うのはマンパワーだという信仰は根強かった。特に軍隊という組織においては人一倍だった。
代々親不幸者しかいない我が家系の収入の多くは、遺族年金だ。さっさと戦場に行ってさっさと居なくなる男衆が女たちに遺す物。だがそれも、国がガタガタになれば話は別。治安維持すら民間に委託する程に弱った祖国には、人口比率が壊れる程に消えた元兵士たちの遺族の面倒を見る余裕なんてなかった。
だから俺は軍に入った。一番稼げて、一番マシな労働環境と言えばそこだった。食わせる女たちは多かった。母親も、ついでに妹も自分で稼げるとは言え限度はあった。俺が、彼女らの面倒を見るしかない。少なくとも現役の俺が居なくなった時、国は面倒を見てくれる。それくらいの余裕は取り戻している筈だった。
俺たちを乗せた装甲車の車列は廃墟の街を行く。先頭を行くは装甲人形を満載した車両。中央に俺が乗る指揮車両。後ろには、今どき贅沢にも人間の兵員が一個分隊。人形一体よりもはるかにランニングコストがかかり、製造期間も長い最高級兵器だ。ついでに手先も器用で汎用性も高い。
国防陸軍第54機甲歩兵師団、というのが俺の所属だった。機甲とついてはいるが、正直今どきの軍隊の歩兵部隊は機甲歩兵、つまり装甲人形とそれを指揮する人間の集まりだった。人手不足もここに極まれりだ。
内部モニターから外を見る。この街には何度も来たことがある。地方の中心都市といった立ち位置で、当時どこかの内戦をやっている国に派遣された父親が帰ってくる度に、この街に繰り出しては遊んでいた。幼いころの記憶だ。もっとも第三次世界大戦が起きるなり、人口密集地という事で即座に攻撃の対象になった。中心部のクレーターには幾万人の血肉だった物が刷り込まれているはずだ。
例えばよく行ったハンバーガー屋の店員や、商店の顔見知りの爺なんかの。だがクレーターに行った所で彼らには会えないだろう。会ったことになってたまるものか……。
「中尉、到着まで五分です」
部下のカザロフ曹長が言う。軍に入隊できる歳になるなり、即座に入隊した叩き上げだ。第三次世界大戦を生き延びた猛者でかなり頼りになる。居てくれると助かる男だった。
「総員装備確認。グリフィンに引き付けられているとはいえ敵も馬鹿じゃない。各種センサ、肉眼での索敵。目を皿にしろ」
手元のタブレットに更新される戦術情報を見ながら言った。グリフィン、民間軍事会社が鉄血施設を攻略しようと大規模な作戦を発動している。上空を飛行するドローンから得られる情報を統合した戦況図から見るに、現状はグリフィンの優勢のようだった。
俺たちはその混乱に乗じ、グリフィンに先んじて敵施設に乗り込み、上層部が喉から手が出るほど欲しいある物を確保する。当然暴走した機械群、鉄血工造と争っている人類側。要するに味方陣営であるはずのグリフィンには通達していない作戦だ。敵味方識別装置も切ってあり、グリフィン側からすれば運用している人形の都合上、俺たちの作戦部隊は鉄血とは見分けがつかない。
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