+1.5 あなたはなにひとつ望むべきではなかった
あのときの安堵感ったらなかった、傍目から見れば危ないリストカッターだが。
傷もすぐ治るというわけでもなく、絆創膏の下では完全に塞がっているわけではないので異常な再生力をこの体が有しているってわけでもなさそうだ。
自分という意識が、すでに死亡した体を人形みたいに無理やり動かしているような状況でもないようだし。
ひとまず経過を見るついでに、この素晴らしき日常を謳歌すべきだろう。
自らの身体に関しては、そんな思考放棄にも似た結論に達したわけである。
途方も無いこと過ぎてさっぱり見当がつかなかっただけとも言う。
しかし現場は血だらけだとか、警察が一杯来てるだとか。
結構、情報が錯綜しているのは気がかりだった。
俺はあの場でかなり出血したらしいが、帰ってきた時、制服には血痕がなかったはずである。
ワイシャツは流石に替えているが、今着ている制服がその時のものだった。
不可解ではある、昨日の記憶の欠落や白昼夢のような出来事といい。
俺の中でそういった特徴に思い当たるものは、創作物の中にしかない。
自分はもしやタイプグリーンのような存在になってしまったのだろうか?とフィクションな事柄を大真面目に考えてみる。
あれは厳密に言えば自分の利益のために能力を行使してしまうような排撃対象?に対するオカ連側の現実改変者の呼称だったから違うかもしれない。
いやいや、この場合だと俺は自らの生死を捻じ曲げるために様々な事柄を改変したのだから十分グリーンたり得るなと思った。
不死性の獲得なんて最たるものだ、これが許容されたならば世の中で気軽にKクラスがまかり通ってしまう。
これは間違いなく収容対象だなと思った、フィクションである財団やオカ連がいないとしても政府の秘密組織なんかに見つかってしまったら実験対象にされてしまいそうだ。
相槌の笑いに本物の感情を織り交ぜつつ、そんなこと『普通に考えてありえない』だろうと自嘲した。
まあ俺は何らかのラッキーで助かったのだろう、もう転生までしてるのだ。
今更何がきたところで何ともない、ただこの生活が続いてくれるなら文句はない。
考えようだ、痛い思いをするのはあれだけでいいが。
強くてニューゲームみたいなものと捉えよう。失ったものは取り戻してやろう。
くだらないことを考えていると、話は結局巡り巡って被害者は誰だというところに戻ってきていた。
「でもよぉ、ウチの通学路なのは確かだよな」
「俺もあそこたまに通るけどなー見れなかったわー」
「オイオイオイ、惜しかったなオマエ」
アリバイを作ろうと口を挟んで話を合わせながらも、件の被害者は目の前にいるぞと先程の考えを台無しにするかのように暴露したくなった。
刹那的な衝動に身を任せる様に人生のスタンスを置いていたが、これはいけない。
そもそも昨日の事故だってそれの延長線の気がする、いつの間にか範囲がガバガバになっていたのは自戒しなければならないだろう。
もちろんこの欲求は口を噤むことで抗った、無用なリスクは避けるべきだとわかっている。
それにこれから何が起こるかもわからない、現状俺にできることは何もなくなっていた。
表面上は何とかなったとしてもどこかで何かが代償として奪われているんじゃないかと恐れてもいる。
都合のいい奇跡なんて存在するのだろうかと、今更ながら疑り深くなっていたわけだ。
もちろんそんな製造元もわからない、値札のついてない奇跡の末に俺は生かされているという現状を棚に上げていたのだが。
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