第2話「5歳児もなかなか大変だったゾ」
プルルルルルル――。
達也と深雪の自宅にその電話が掛かってきたのは、入学式前日の夜、そろそろ明日に備えてベッドに入ろうかと2人が思っていたときのことだった。
「――――!」
「――――!」
その瞬間、2人の表情が一気に警戒の色に染まった。
現代社会では電話の機能も持った携帯端末がほぼ100パーセントの割合で普及し、ほとんどの人はそれを使って電話をするので、自宅の電話に掛けないどころか自宅に電話が無いことも珍しくない。達也も深雪も中学時代の友人がいないわけではないが、携帯端末に直接掛かるため自宅の電話が鳴ることは無い。
しかも今回の電話は、通常の回線とは別物の“秘匿回線”を用いて掛けられたものだった。通常のそれとはセキュリティが段違いであるそれを使うということは、盗聴の類を仕掛けられると非常に困るような内容を伝えようとしていることを意味する。
『夜分遅くにごめんなさい、達也さん、深雪さん』
果たしてテレビ画面に映ったのは、ほとんど黒に近い色合いのロングドレスを身に纏い、異性を妖しく惹きつけずにおかない妖艶な魅力と、思春期の少女を連想させるような可愛らしさという相反した印象を同居させた女性だった。
「――どのような用件でしょうか、叔母様」
そんな彼女に対し、深雪は緊張感を内に秘めながら問い掛けた。
その隣に寄り添う達也も、彼女ほど表には出さないものの、画面に映る女性をまっすぐ見据えている。
その女性の名は、四葉真夜。
名字に“四”が含まれている四葉家の現当主であるが、四葉家は単なる“数字付き”の一員というだけではない“特殊な事情”がある。
一口に“数字付き”と言っても、その全てが平等の立場というわけではない。“二十八家”という頭一つ抜きん出た存在である家系が28存在し、さらにその中から4年に一度行われる会議で選ばれた10の家系を“十師族”と呼ぶ。日本の魔法師達が所属するコミュニティの頂点に君臨する十師族であるが、四葉家は七草家と並んで一度も十師族選定から落ちたことが無く、いわば“日本最強の一族”と表現しても差し支えない。
そんな一族の当主との会話は、たとえ親族である達也たちでさえ緊張するものだ。もっとも彼らの場合、別の事情も関わってくるのだが、それは今ここで書くことではないので割愛する。
『2人共、いよいよ明日が第一高校の入学式ですね。魔法師として非常に大事な3年間となると思いますが、2人にはそのことを頭から離して、純粋に学生生活を楽しんでくれたら嬉しいです』
「……お気遣い、感謝致します」
深雪がそう言って頭を下げるのに合わせて、達也も真夜の映像に向けて頭を下げた。しかし2人共、彼女がそのような世間話で電話をしてくる性格でないことは重々承知であり、どのような“本題”をぶつけてくるのか気になって仕方がなかった。
『さてと、私がどんな内容で電話してきたのか気になって仕方がないって顔をしてるから、手短に話そうかしら。――あなた達と同じく明日入学する新入生の中に、1人気になる子がいてね』
「……気になる子?」
真夜の言葉に、達也も深雪も訝しげな表情を浮かべた。日本だけでなく世界でもその名を恐れられている“四葉家”の当主であり、本人も“世界最強の魔法師”の一角に顔を並べている彼女の気になる存在となれば、余程の人物だということになるからだ。
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