さり気なく、戸塚彩加はきっかけを与える 3
がちゃがちゃとした電子音があちこちから響き合うゲームセンター。初日に沙希といった場所だ。沙希は興奮した面持ちでずんずんと前に進んでいく。それを追いかける形で俺と戸塚、小町に由比ヶ浜、最後尾に場慣れしていない雪ノ下が付いて行く。
やはりというか、ダンレボの区画には人はひとりもおらず、今回も確実に独占できる状態になっている。ちなみに、ダンレボとはDance Dance Revolutionの略だ。知らない人はググってね?
いつの間にやらちゃっかり硬貨を投入していた沙希が、パネルの上に立って俺を催促してくる。
「ほら八幡!」
「すげえノリノリだな……俺これ下手なんだけど」
ぶつくさ言いながらも沙希の隣に立つ。ちらりと後ろに目をやると、小町と由比ヶ浜がぽかんとした様子で沙希を眺めていた。
まあ、そうなるよね普通。
他の面子に視線を移せば、戸塚は目をキラキラさせて俺を見ているし、雪ノ下は既に環境にやられたのか頭を押さえて眉間に皺を寄せている。誰もこちら側に上がってきそうにはない。
「じゃあ行くよ八幡」
沙希の声は弾んでいる。
「頼むからなにも殴るなよ……せめてステップ踏んで踊るだけにしてくれ」
「あんたはあたしをなんだと思ってるのさ……」
沙希にジト目で見られるも、ゲームが始まると途端に視線をディスプレイに戻す。
「一緒に踊るよ」
「そういうゲームじゃないんだよなあこれ……」
「いいから行くよ!」
二の足を踏んでいる内にゲームが始まる。矢印の数が初級レベルより遥かに多い。こいつ、中級レベルっぽいの選びやがったな……!
矢印に合わせてパネルを踏むも、数が多すぎて足がもつれる。隣では沙希が悠々と鼻歌を歌いながらステップを刻む。思わずムキになるも半分程度しか成功しない。
「ほら、手ぇ出して」
見かねた沙希が手を差し出してくる。仕方ねえなあとその手を取ると、自然と沙希と息が合ってリズムが合ってくる。なにやら背後でわちゃわちゃと会話している声が聞こえた気がするが、意識から勝手に排除排除される。
瞬間の間。互いの呼吸で手を離し、沙希がその場で一回転。ふわりとスカートがなびく。再び繋いで次の矢印へステップを踏む。
途中からはパーフェクトで一曲目が終わる。二曲目へ続くその間に、ようやく雑踏が聴覚に入ってくる。
「見ましたか由比ヶ浜さんや。あのお二人、仲良さそうに手を繋いで息もぴったりです。これはもう、あれですねえ、あれ! 愛いですねえ……!」
相変わらず小町の科白はおばさん臭い。将来井戸端会議するようなおばちゃんになっちゃうのかしら……。お兄ちゃん心配だなあ。
「むむむ……あ、あたしだってできるもん!」
子犬のような唸り声をあげた由比ヶ浜が、パネルに侵入してくる。
「沙希! 交代!」
「ん? いいよ」
一曲踊って満足したのか、沙希が由比ヶ浜に場所を譲る。ならば俺も逃げる。これ以上は無理だ。
「八幡!」と丁度よく戸塚も乱入。
「よし任せるわ」
「うん、任された!」
天使の頷きをした戸塚とバトンタッチ。ついでとばかりにすれ違いざまに手を叩き合う。これ戸塚とやってみたかったんだよなあ。夢かなったよ……。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク