ハーメルン
生まれ変わったら竜になりたい女の子とお話しするお話
生まれ変わったら竜になりたい女の子とお話しするお話
「生まれ変わったら、竜になりたい」
青空が、とてもきれいだ。
この地域では珍しいことだった。鬱蒼と木々が生い茂る原生林では、そもそも空があまり見れないから。見えても大抵曇っているか、雨が降っている。
開けた空間の周囲から、鳥の鳴き声と流れる水の音が折り重なって聞こえてくる。
彼女は、巨大な蛇の竜の、お腹の上に腰掛けていた。
蛇の竜は、息絶えている。
「……それはまた、どうして?」
「竜になったら、空を飛べる」
「まあ、飛竜なら飛べるだろうけど……」
私は言葉を濁しながら、剥ぎ取りナイフで蛇の竜の鱗の一枚をざくざくと剥ぎ取っていく。
流れ出す血は、黒く染まった紫色をしていた。あまりそれに触れないように気を付けつつ、彼女との話を続ける。
「空を、飛びたい?」
「うん」
「地上を見下ろしたい?」
「空を……見たい」
今、見えてるのに。
私は顔を上げた。相変わらず彼女は竜の亡骸の腹の上に座っている。
蒼火竜
(
リオソウル
)
の軽鎧に、火竜の太刀、飛竜刀。頭の鎧は脱いでいて、青鈍色の髪が肩まで垂れ下がっている。
彼女の名前は、テルーといった。
彼女は空を見上げていた。湿地帯特有の低く立ち込める雲はそこにはなく、抜けるような青空が広がっている。
彼女の視線はここからでは見えなかったけれど、意識は遠くへ向いているように思えた。
空を飛んで、空を見る。それは、地上から見るのとは違う。より広く、蒼い。そんな空を、彼女は見たいのかもしれない。
ただ、それは何も、竜にならなければ実現できない望みというわけでもない。私は彼女に問いかけた。
「それなら、気球じゃだめかな? あれならゆっくり空を見れる」
「……それでも、いいかも」
遠くの狩場へ行く時などに使う、気球。それほど珍しくもない。立っていれば勝手に空の高いところまで送ってくれるのだから、空からの景色を見るにはそっちの方がお手軽だ。
けれど、はじめは頷きを返したテルーは、ややあって言い直すように小さく首を振った。
「でも、やっぱり人は小さいから。小鳥もそう。両手を広げても、これだけ」
やんわりと両手を広げる。私から見た彼女はちょうど逆光となって、光と影のシルエットのように見えた。
そのまま彼女は手を伸ばす。弛緩した手で、ゆっくりと。まるで、遠くの何かに引き寄せられているかのように。
「竜になって、大きな翼で……空を掴めたらいい」
逆光の中で、その横顔から、彼女が少しだけ口角を持ち上げて、どこか楽しそうに笑っているのが見えた。
短編『生まれ変わったら竜になりたい女の子とお話しするお話』
「また狂竜化のクエストが出てる……」
ハンターズギルドの集会場に設置された掲示板の前で、テルーと私は顔を見合わせた。
掲示板の『優先して受けてほしい欄』に張り付けられていたそのクエスト用紙には、『生態未確定』のスタンプが。
そのスタンプは、調査職員さんが観測したときに明らかに普通でない行動をしていたり、不自然に小型モンスターがいなかったり死んでいたりしたときに押されるものだ。経験則から言えば、十中八九モンスターが狂竜化している。
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