ハーメルン
ニグンさんがお気に入りなんです。
15 陽光聖典班長、来る

 スレイン法国神都の外れをひとりの男が走っている。
 彼の名はイアン・アルス・ハイム。法国六色聖典がひとつ、陽光聖典第一班の班長だ。
 陽光聖典の任務は主に人類を脅かす亜人種の集落やモンスターの巣の殲滅であり彼らは六色聖典の中でも最も戦闘が多い。入隊するには信仰系の第三位階魔法の修得が必須だし、また肉体能力・精神能力に秀でている事も求められ、信仰心の篤さも必要となってくる。魔法詠唱者でありながら近接格闘も熟せるほど鍛え上げられた屈強な身体を持つ彼らは部隊としてもエリート中のエリートである。
 まあとにかくだ。イアンはそんな陽光聖典の一班の班長として誇りを持って日夜この仕事をこなしている。全ては信仰の為に、人類の未来の為に。

 そしてそんな彼は今、部下である予備隊員の男からの一報を聞いて歓喜に震え、神に感謝し、その日の仕事が終わるや否や一刻も早く我らが隊長の元へと走っていた。




++++++


 すでに空は夕闇が広がり、仕事を終え帰宅する人間達の声が窓の外から聞こえてくる。
 そんな中で、陽光聖典構成員らの居住区内にあるニグンの住まいにてシラタマはとある絵本を開いた状態で固まっていた。
 さっきまでニグンが陽光聖典隊長としての書類仕事を行なっていたのだが、それを何気なしに覗いたシラタマはある事に気付いたのである。
 書いてる文字が読めない――と。
 何この謎の記号みたいな文字はと狼狽えるシラタマに法国語ですよとニグンが答える。
「いや異世界だってのは知ってたけどさ、普通言葉が通じてるなら文字も勝手に読めるようになってると思うじゃん……何してんの翻訳班仕事してよ……」
 ぐぬぬと唸るシラタマを横目にニグンは机の引き出しから一冊の本を取り出し、それを開く。
「シラタマ様や至高なる御方々がお使いになられる文字はこちらですよね」
「ん? おお! そうそうこっちだよこっち!なんだあるんじゃない日本語!」
「ニホンゴ、という意味は分かり兼ねますが、六大神様が使われていた言語として法国の神官は学ぶ機会がありますので」
 はえー、とシラタマは感嘆の声を漏らす。どうやら六大神は色々と文献を残してくれていたようで、そこに書かれていた言語は神の文字とされ残っているらしい。伝えてくれた六大神やるじゃんありがとうとシラタマはニグンから渡された本をパラパラと捲る。内容は六大神の神話を日本語に翻訳し直され書かれているものだった。神官らが神の文字を学ぶ為の教科書、という感じだ。
「でもなんか堅っ苦しいねコレ……もっとふわっとしたのないの? 簡単なやつ」
 そうですね、とニグンは引き出しの奥から今度はひと回り小さな本を取り出す。
「これは祭事で神殿に訪れた子供が神の文字を学ぶ際に使う絵本なのですが、法国語訳も横に書いてあります。話の内容も簡単なものですので丁度良いかと」
「おおマジか。どれどれ」
 シラタマは絵本を開き――硬直した。
「……ニグンちゃん、これ子供向け絵本なんだよね?」
「ええそうですが」
「子供が、読むやつ、なんだよね?」
「? ええ」
「…………」
 ふっ、とシラタマは微笑し絵本を閉じる。
「一旦この世界の言語をリセットすべきじゃない?」
「えっ!?」
 その目は諦めを物語っていた。
 子供用だか知らんがレベルが高すぎる。しかも子供用のくせに挿絵がないとはどういう事だ。絵本なのに絵がないとは詐欺じゃないか。法国の子供は活字中毒かなんかなのか? 頭良すぎてもはや馬鹿かよと嘆きたくなる。というかすでに嘆いているシラタマにニグンは当惑する。

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