星を見る話(シェアワールド企画)
「ねぇ、今夜星を見に行かない?」
クラスメイトの篠崎香穂子が僕にそう言ったのは、放課後すぐのことだった。
「なに急に?急になに?」
突然の誘いに僕はビックリして同じ言葉を繰り返してしまった。
どういう風の吹き回しでそうなったのか、さっぱり分からなかったからだ。
「夕ちゃん今日暇だよね?行こうよ!」
「嫌です。」
「なんで?」
なんでっていうことがあるのだろうか。
確かに僕と香穂子とは小学校からの付き合いだけれども。
この神崎夕にだって君の誘いを断る権利くらいはあるだろうに。
「なんでも何も、何時から何処まで行くつもりなのさ?」
僕はあきれまじりに聞いた。流石に場所によっては帰りが深夜になってしまうから親にも事前に話をしなくてはいけない。
「んー、とりあえず19時半に星見ヶ丘の展望台まで!」
「...」
香穂子の言葉に僕はため息をついた。
彼女が「とりあえず」と言ったときは大体たった今適当に思いついたときだからだ。
僕は言ってしまえば、香穂子の計画性の無さがはっきり言って苦手であった。
そのおかげで、小学校と中学校の頃は振り回されっぱなしだった。
でもまぁ星見ヶ丘の展望台か…。
そこならば行けないことはない。
「...わかった、それなら行くよ。」
僕は頷いた。次に来る言葉を知っていたからだ。
「展望台の坂の手前で待ち合わせね!拒否権はないよ!」
「...はいはい。」
拒否権はない。
彼女が僕を誘う上での決まり文句で、それを言われたら僕はそれに従わざるを得ない。
始めに僕は断る権利くらいはあると言ったが、そんなものはうそだ。ごまかしだ。
こと篠崎香穂子の頼みごとに関して、僕が彼女の頼みを断ろうとしてうまくいった試しというものはただの一度もなかった。
僕がひとたび「わかった。」などと、了承したような返答を聞くなり、彼女はもう僕の前からいなくなってしまうからだ。
「...はあ。」
とにもかくにも、僕は今夜彼女と星見ヶ丘展望台に行くことになってしまった。
でも悪い気はしなかった。
僕は行くことを決めたからだ。
彼女に従うでなく、僕自身の意思で。
~~~~~~
星見ヶ丘展望台は僕の家からは自転車で15分ほどの場所にあり、
そこから少しきつめの坂を10分ほど登り、さらに17段の階段を上ったところで、ようやく展望台に到着する。
これまでも春には桜を、夏には花火、秋には紅葉を、冬には夜景を、朝昼晩四季折々関係なしに幾度と無くここを登らされてきたので、道のりを体が覚えてしまっている。
いや、この場合は染み付いてしまっている。というべきなのか。
「おお!十分前集合なんて、夕ちゃんしっかりしてるね!」
駐輪場へ早めに着いたと思っていたら香穂子が先に来ていた。
「まるで僕は普段からしっかりしてないみたいな言い方だね。」
「もう、そんなこと言ってないじゃない。」
僕が悪態をつくと香穂子は腰に手を当ててすこしむくれたが、ふうとため息を吐いて
[1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク