星を見る話(シェアワールド企画)
「まぁいいわ、ほら、行きましょう?」
そう言って僕の手を引いて歩き出す。
僕は彼女に引っ張られながら展望台に向かった。
「ねぇ、どうして僕なんか誘おうと思ったの?」
僕は歩きながら香穂子に質問した。
正直な話、僕を誘った理由が分からなかった。
彼女とは小学校からの付き合いではあるが、高校受験の辺りから僕と彼女の仲はすっかり疎遠になっていたからだ。
今日声をかけに来るまでてっきり彼女は僕のことをほとんど忘れてるものだと思ってすらいたのに。
「...夕ちゃんだからだよ」
「...僕だから?」
「そう、夕ちゃんだから。」
そう言って僕の手を握る香穂子の手に力が入るのを感じた。
…ますますわからない。
自分でいうのも何だけれど、僕はどちらかといえばクラスでは“陰キャ”と分類される人間だ。
それに対して香穂子は中学に上がるなり、陸上部に入り、仲のいい人を増やしていった。
僕と疎遠になったのも、それが理由だ。
いや、むしろ僕の方から彼女と距離を開けたのだ。
僕より明るくて話しやすくて顔の良い人たちは沢山いる。
僕より楽しい話が出来る人は沢山いる。
そっちと話していた方がずっと楽しいはずなんだ。
...なのに、
「ほら、もうちょっとで展望台だから、夕ちゃんがんばって!」
「え?あ...うん。」
今僕は、香穂子とこうして展望台を目指して歩いている。
…なんでだ?
なんでなんだ。
僕になんか構わないで欲しい。
そうすれば...。
そうすれば、
でも、僕はそうやって香穂子を突き放すことも出来ない。
情けないほど臆病な自分が憎い。
「ほら!着いたよ夕ちゃん!」
「えっ?」
彼女の言葉ではっとして僕は周りを見渡して、いつの間にか展望台に辿り着いていたことに気づく。
空にはこれでもかと言うほど満天の星空で、
こんなにここは近かっただろうか。なんて疑問がどうでもよくなるほどに今まで見たどの星空よりも綺麗だった。
今なら六等星も見えるような、そんな気さえもしてくる。
「綺麗…」
僕は思わず声に出してしまった。
それほどに綺麗だった。
「うん、でも…」
星の光が急に強くなったんだろうか?
いや、星の光は何光年も前の光がみえているのだから、多分変わったのは僕の見方なのだろう。
きっとずっと見落としていたに違いない。
たしかにそれは確かにあって、かわらずにあり続けたのに、それに気が付かなかったに違いないと僕は思った。
「…だよ。」
「えっ、なんて?」
しまった、考え事をしていたせいで香穂子の言ったことを聞き流してしまった。
「…ううん、なんでもない。」
香穂子は静かに首を横に振った。
心無しか顔が赤く見えた。
それを見た僕は、彼女が言った言葉の意味を理解した。
そして急に心臓が激しく脈を刻み出したような感覚に襲われた。
今すぐにでもこの気持ちをつたえたい。
そう思ってしまったのだ。
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