プロローグ
「…………」
黒い雨が降り続いている。
第三次世界大戦の後遺症で、世界はまともに機能する余力を削り取られ、天候も何もかもがめちゃくちゃだった。
ここもそんな場所の一つ。
あちこちにクレーターが空いており、そこに紫に発光する不気味な液体が貯まっている。
そんな場所に、三人の人影があった。
「ゲホッ、ゴホッ、ずまねぇ…」
「…………」
影の一つは男。
拳銃を片手に佇んでいた。
もう一つは女。
…ただし、下半身は醜く変異している。
最早形容を憚れる様な有様で、昆虫の様に無数の脚が生えていた。
…既に息はない。
顔だった場所には無数の弾痕がある。
そして、最後の一つは息絶え絶え、腕が吹き飛び胸にも大穴が開いた男。
「すまねぇ…すまねぇ…」
「もう、終わった。喋るな…」
「…良いんだ…ゲホッ…俺は、もう…長くない…」
二人共、黒いレインコートを着ているが、その下には戦闘用の装備を身に着けている。
…この世界に残った唯一の国の軍。
三人はその軍隊の隊員だった。
何時も通り三人でチームを組み、何時も通りの偵察任務で終わると思っていた。
…女が行方不明になるまで。
「すまねぇ…パトリック、すまねぇ…アリサ…」
死に体の男はうわ言の様に謝罪を続ける。
その言葉を、ずっと聞く…パトリックと呼ばれた男は、倒れ伏す音に銃口を向けた。
「…すまねぇ、相棒…最期まで、迷惑掛ける」
「…全くだ。何で俺がお前らカップルの面倒を最期まで見なきゃならねぇんだ」
ようやく、立っていた男が口を開く。
その声は、震えていた。
「最期に、1つ…聞かせてくれ…パトリ、ック」
「…何だ」
「お前…アリサのこと…好きだったろ?」
「………………ああ。多分…初恋だった」
「そっか……ありがとな、相棒…」
「楽しかったよ、マイク」
乾いた銃声が二発。
そして、雨の音だけがずっと鳴り響く。
「…最後になんて事聞きやがるんだよお前は」
拳銃をしまい、男の死体を女の死体のそばまで運ぶ。
…近くにあった木片でなんとか穴を掘る。
「こんなとこで悪いな相棒…せめて、一緒に埋葬する」
2つの死体を埋める。
この行為になんの意味があるか分らない。
今にでも女をあんな風にした奴らが迫って来ているというのに。
しかし、やらずにはいられなかった。
遺体を持ち帰る事はできない。
男は生き延びねばならなかった。
2つも命を託されたのだ。
生き延びねば。
「くそう、ちくしょう、大好きだったよアリサ…マイクより先に、ずっと前から…!」
雨では無い水が滴る。
近くに落ちていたアサルトライフルを手にする。
「必ず、必ず戻ってくる。ちゃんと、二人を埋葬する為に…だから、許してくれ…俺は、生き延びる」
男は走り出す。
背後から迫る何者かから逃げる為に。
「くそったれ!最悪な気分だ!だから、だから女は嫌いなんだよ!!」
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