ハーメルン
キャスターが最強のSHINOBIを召喚したそうです
ついに最初の脱落者が出たようです
「そうか。計画は失敗したか」
自室で報告を聞いた葛木はさして残念そうでもない口調で言った。どんな事柄にも大きな感情を見せないのが、この男の特徴だった。
それに失敗と言っても大きな痛手を負った訳ではない。初見だったアーチャーとセイバーの手の内が一つ知れた事を考えれば、むしろ大きな収穫があったと言っても良い程だ。
だと言うのに、当人であるメディアは昨夜の失敗から来る落胆ですっかり縮こまっていた。
「申し訳ありません……」
肩を落とした姿と同じように声にも全く覇気がない。成功すると確信していた作戦をしくじったという事実が、未だ受け止めきれていないようだ。
そんな彼女を責めるでも慰めるでもなく彼は言う。
「失敗したのなら、また策を練ればいい。状況を見極めれば、自ずと打てる手はあるだろう」
それだけ告げると、今日の仕事に向かうべく葛木が立ち上がった。
てきぱきと身支度を済ませて玄関へと向かっていく彼の背中に、少しあってからキャスターが声をかける。
「あ、あの!」
振り返ると布に包まれた箱と小さな巾着袋が突き出された。
「これは?」
「お寺の方に教わって作りました。その……お弁当です。お口に合うかは分かりませんけれど……」
気恥ずしさと緊張が混ざった表情から察するに、決して完璧な自信作という訳ではないのだろう。それでも精一杯の勇気を出して手渡す様は、普段の尊大な態度とは雲泥の差だ。
「こちらは魔術を込めたお守りです。もし身の危険を感じたらそれに向かって呼びかけて下さい。どこでもすぐ迎えに行きます」
「分かった」
頷いた葛木が護符を懐に入れ、弁当の包みを鞄に入れる。それで用は済んだと察したのか、再び玄関に向き直ると扉のガラス戸に手をかけた。
「では行ってくる」
そっけない主人の言葉にもすっかり慣れた様子でキャスターは小さく頭を下げると、暖かい微笑みと共に彼の背中をじっと見送る。
「はい。行ってらっしゃいませ。宗一郎様」
そこには既に長年付き添った夫婦のような妙な貫禄が漂っていた。
◇
夜明け前に電話で叩き起こされた遠坂凛はひどく機嫌が悪かった。
電話の主は衛宮士郎からで、内容は謝礼の言葉だった。聞けばキャスターの罠に嵌まった所を偶然居合わせたアーチャーに助けられたと言う。
自分には全く心当たりがない事柄だったが、送られた言葉をとりあえず受け取ると、何食わぬ顔で家に戻っていた己のサーヴァントを問いつめた。
「その件か。衛宮士郎の言うようにただの偶然だ。街中を偵察していたら、サーヴァントも連れずに歩いていく小僧を見つけたのでな。不審に思って後を付けてみれば、まんまとキャスターの術中に引っかかっていたと言う訳だ」
気に食わないほどの落ち着きぶりでアーチャーは事情を説明したが、話を聞いている間、凛はずっと別の事を考えていた。
士郎が自分と同盟を結んでいる以上、パートナーである彼を助けることはそれほど不自然な行為ではない。むしろ気になったのは、何故アーチャーが自分に黙って街に出ていたのかという事だ。
思えば出会った時からそうだった。彼は自分をマスターだと認識しながらも独自の目的で行動している節がある。それが完全に悪いと言う訳ではないが、明らかに自分の思惑とは違う方向に物事を運ぼうとしているのは確かだった。
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