第4話 挙市
私には古くからの友人がいた。地元が同じ小山とかーしまだ。二人とも私と同期で生徒会に入り、小山は中3の時点で都市開発課インフラ整備局の局長補佐に付いて、かーしまは校外交流課の対他校局の一人だった。二人とも人の貸し借りの中で学園のこともやってたりしたけどね
結局かーしまが初めて役職らしい職に就いたのは高2の夏。よーするに仕事はできるが上には立てなかったのだ。実際そうだと思う
だがその二人には色々と助けられてきた。私が疎かった学園都市の内政状況を把握して、他との交渉材料に使えるようになったのは、間違いなく小山のおかげだ。そして時に、私の隣で力強く押してくれた。それは相手の心の芯であり、私の心の核でもある
かーしまは弱い奴だが強い奴だ。すぐに心折れて泣き出すくせに、次の日には変わらずに仕事に戻る。そして、船舶科の状況が改善に向かっているのは、迷い込んだかーしまの功績だ
半ば犬になる勢いの忠誠心は受ける身としても悪くないしね。生徒会にいるだけで雰囲気が変わる、そんな力があった。もちろん生徒会の企画の中でもふざけあえる仲間だったね
私が学園課の課長に就いていた高校2年の夏、もうすぐ夏休みに入ろうとしていた頃、当時の生徒会長の山崎さんから一つの話を打診された
「角谷いるか?」
「はい」
課長といっても部下より書類仕事は減るし、だいたいその少ない書類を元手に下に指示出すだけだ。その時も干し芋片手にお茶を飲んでた時だった
「突然で悪いが、お前都市開発副の小山と組んで私の後を継いでもらえんか?」
「はあ」
「フォーラムがお前なら推薦を出す、と言っている。私としてもお前の指導力なら後を任せられる。お願いできないか?」
「構いませんが」
「やけにあっさりだな……」
「そりゃ、私以外にできるとも思えませんしね」
「……はっきり言うな」
残念ながら他の課長級と比べても、誰が訊いても私になってしまう。仕事量、実務貢献、統制指揮、その全てにおいてね。自分で言うのもなんだけどさ。ま、今は指揮一辺倒だけど
「5割がたその通りだけどさ。じゃ、受けたってことで話進めとくぞ。公約とか考えておけよ」
私の公約。まぁ、学園を変える、とか栄光を再び、とかがよくある話だが、どうにもできそうな話ではない。どうにかするための予算が組めないのだから致し方ないのだ
はてさて、どうしたもんかね
「と、そうだ。角谷」
また山崎さんに呼び止められるまで、そんなに時間はなかった
「健闘を祈願するには早いかもしれんが、飯食いに来ないか?」
断る理由はない
「……構いませんが」
「よし決まりだ。それじゃ、私は小山を呼んでくる」
一人暮らしの私にとって、先輩方と食事に行くのは実に合理的だ。要するに向こうがもっと出してくれる可能性がある
呼び出されたのは甲板上の公園、そこには私しかいなかった。時間を確かめたが、予定の5分前である。他に一人くらいくるのかと思っていたが、誰もこなさそうだ。まだ少々日も高いしな
さて、生徒会長か。こうして学園のために、と働いてきた。そして変えるための手は打てる限り打った。たとえ人から後ろ指を指されそうなことでもやってきた。それが愛する大洗と学園のために必要だと知っていたから
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