ドクターがわざわざ肉を持ってきてくれて、それを美味しく頂いたあとのこと。
「読心以外は燃費が悪いようだね」
と、先生が言った。曰く、変身が使えるのは二回までが限界だろうとのこと。それ以上使ったら生命力不足で死ぬらしい。
とはいえ、変身自体はかなり便利な能力なのでリスクを管理しつつ使うのは問題なさそうらしい。これ、ぼくは褒められてるものと受け取っていいのだろうか。うれしい。
◇
弔と二人になった。
なんでも先生は忙しいようで、ぼくの個性の確認を終えるとたったかと出ていってしまった。ドクターはこの家にいるようだ。ぼくの食事を補充するためらしい。すこし申し訳なくなる。
弔は、こちらのことを気にしながらも、あんまり近寄ってはこない。声は聞こえる。その声に耳を傾けると、彼は決まってこう言っている。
『もうだれかをバラバラにしたくない』。
まるでぼくからすると意味のわからない言葉だが、彼からすると大きな意味を持っているようで、ぼくを遠ざけている。
話しかけてはくるのだが、しかし一定の距離を置かれている。ぼくが床のうえでごろごろ転がっていてもスルーした。
ひどい。
仕方ないのでぼくのほうから近づくことにする。とてとて、と歩いて、にじにじと弔の側に近づいていく。ほんとにちょっとずつ進むから、弔は気づいていないようだ。これは勝った。そう思って、しかし警戒を解かずにじにじと進んでいると、機械に向き合っていた弔はこちらを向く。
そして少しだけ距離を離した。
どう考えても露骨に避けられているので、ぼくはわずかに落ち込んだ。
ということで弔に近づく方法を考える。
個性を使って身体強化、そうして追いかけるのが一番いいのだろうが……加減を失敗して弔をこっぱみじんにしたりしたらしゃれにならない。実際、全力で発動したら尻尾で叩くだけで熊を仕留められるくらいに強化されるのだ。
臆病にだってなる。
よってこれは却下だ。さすがに殺してしまうかもしれないことをやるのは避けたい。ぼくは弔を殺したいわけではないのだ。ただ、せめて遊んでほしいだけなのだ。
かわいらしく鳴きながら(こうして甘えた声を出すのは虫唾が走るのでわりと自爆攻撃)、弔にアピールをする。
恥ずかしいったらありゃしない。そういえば、森にいた時代に甘えた子供のイノシシを殺した覚えがあったっけ。しかたない。あの殺伐とした環境のなかで、媚びた声で鳴くなど恥ずべき所業なのだ。
恥ずべき畜生。
ともあれ戦果。「なんだよ……」という言葉とともに、弔から置いてあったハエたたきで背中を撫でられた。汚い、と思うことはなかった。それを嬉しいと、ぼくは思ったのだった。
翌日。
弔はこちらに少しだけ慣れたのか、紐をぼくの前に吊り下げてくる。そんなものでぼくが釣られるわけがないだろう、と思って無視しようとしたが、目の前で振られると獲物と思って狙ってしまう。噛み付くと宙に釣られた。
そんなものでぼくが釣られるわけがあった。
「これじゃあ首を痛めるな」
と、いって弔はぼくをゆっくりと下ろす。そうして昨日のようにハエたたきではなく、普段体にくっつけている手の一つを使ってぼくを撫でた。昨日より断然心地よかった。
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