ハーメルン
氷柱は人生の選択肢が見える
其の十一: 「雷少年が聞いた『音』」

「明道先生が…! 明道先生が…!」
「た、炭治郎動くのやめとけって! 死んじゃうぞ!!」
「何言ってんだ紋逸!! 動かなきゃセンセーが死ぬ!!」
「だから紋逸じゃなくて俺は善逸な! ……話が逸れた!! そーじゃなくて、先生に上官命令で待機を言い渡されてるでしょ?! 『あの』明道先生が何の対策もなしに上弦と戦ってるわけないだろ!」
「でも…!!」

今にも飛び出しそうな炭治郎と伊之助の裾を掴み、なんとか引き止める。二人の力が強すぎてズルズルと引き摺られた。そのせいで怪我をした自分の足が痛んだが、気にすることなく必死に二人を止める。

(確かに炭治郎と伊之助の言うことは分かるけどさ…!!)

あの上弦の参は驚くほどに強い。今まで聞いたことのないくらいの『強者の音』がした。自分の手がガクガク震えるし、鼻水が出てくるし、直ぐにでも逃げたいほど恐ろしい。だが、逃げるわけにはいかなかった。ここには二百人にも及ぶ乗客がいる。弱くて情けない俺だけど、民間人を見捨てることだけはできなかった。

(まあ、今の俺の実力じゃあ上弦には敵わないから何言ってんだって話だけども!!)

それでも炭治郎や伊之助の言う通り、明道ゆき先生の下へ走るべきだ。彼女の隣に立ち、あの上弦の参に斬りかかるべきだ。理由は簡単。『柱』である明道先生が今の俺達の生命線だからである。彼女が死んだ瞬間、乗客と俺達の生存率がガクッと下がる可能性が高かった。故に、現在の『先生一人に上弦を任せて俺達は観戦』という状況はどう考えても得策ではない。

(けど、けど! あの人は言ったんだ!)

「待機。上官命令です」って。

普通ならそんな言葉は無視して助けに入った方がいいに決まっている。自身の足がすくんで怖くても泣き叫んでも力を振り絞って戦うべきだ。そうでなければ明道先生が、乗客が、死んでしまう。

(でも、できない。明道先生は俺達の助けを望んでいない)

――――俺が、俺達が弱いから。足手まといになるからあの人はこちらに『待機命令』を出したんだ。それを自覚して死ぬほど歯痒かった。勿論、俺達に明道先生は乗客の命を任せてくれている部分もあるのだろう。だけど、一番の理由はきっと俺達の『弱さ』だ。

(アーッ!! ほんと頭痛い!!)

色々考えて俺は頭を掻きむしりたい気持ちになる。炭治郎と伊之助の服を掴んでいなければ、実際にグシャグシャと髪を掻き混ぜていたと思う。

(もぉおぉ嫌だよォ! 何で俺がこんなこと考えなきゃいけないわけ?! 上弦なんかと遭遇しなきゃいけないわけ?! ふっっざけんなよ!!)

自分の境遇にブチ切れそうになる。今の危機的に咽び泣きたい。しかし、そんなことをすれば戦えるものも戦えなくなるのでグッと抑えた。拳に力を入れながら、スッと面を上げる。視線の先には明道先生がいた。彼女は斬り落とされた左腕を止血することもできないまま、もう一方の腕の方を上弦に掴まれている。その姿を見て、ギリギリと歯を噛み締めた。情けない。自分が情けない。弱い自分が情けない。何故、俺はいつもこうなんだろう。颯爽と助けられるほどの力がないんだろう。俺は自分が一番嫌いだ。

(どうしたら、どうしたらいいんだろう…。考えろ、考えるんだ我妻善逸…!!)

ぐるぐると頭を回転させながら明道ゆき先生のことを考える。先生の言った通りこのまま「待機」で本当に大丈夫なのだろうか。明道ゆき先生を助けなくていいのだろうか。先生の死がもうそこまで差し迫っている。助太刀に入らなくては明道先生が殺されて…………ああもう!! これだから俺はこの人が苦手なんだよ!! はっきりと作戦内容を伝えてくれない! 明道先生は「敵を騙すなら味方から」と言って大事なことを教えないから凄く嫌だ。

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