ハーメルン
氷柱は人生の選択肢が見える
其の十一: 「雷少年が聞いた『音』」


―――実を言うと、俺、我妻善逸は氷柱・明道ゆきが苦手である。

理由は三つあった。まず一つ目の理由は『明道先生の見た目と中身がチグハグすぎて怖い』からだ。あの人からはいつも沢山の感情の『音』がする。喜びと幸せな音が聞こえたかと思えば、直ぐに絶望と悲しみ、怒りの音が鳴り響くのだ。加えてその『音』がまるで一人で音楽会を開いているかのような爆音ときた。ありえないほど煩かったのだ。まあ、そこまでならまだいい。感情が煩い人っていうのは稀にいるからだ。

でも、明道ゆき先生は他とはちょっと違った。

強烈な感情の『音』をさせておきながら表面上のあの人は常に穏やかだったのだ。「感情? いつも変わりありませんよ」みたいな表情を涼やかに浮かべるのである。情緒不安定すぎる内面と、それに相反する顔を見て、俺はこう思った。

「えっ怖っ近寄らないでおこ…」

いや、だって仕方がないじゃん。誰だってこうなると思うぞ。しかもあの人、激しい感情の『音』のせいで何を考えているかまるで分からないしさ。炭治郎曰く「自分の考えを分からせないためにわざと感情をごちゃごちゃにしてるんだと思う」らしい。それを聞いて余計に先生には近づくまいと思った。鬼殺隊最高位を戴くような人間は、やっぱりヤベー奴しかいないんだろう。絶対無理。怖すぎ。

(まあ、炭治郎は何故かどんどんと明道先生へ話しかけていたけど…)

炭治郎は俺と同じように『匂い』で明道先生の内面に気が付いているはずだ。それなのにも関わらず炭治郎は恐れず、怖がりもせず、先生に近づいていったのである。流石のあれには戦慄した。とんでもねえ炭治郎だ。やべえ炭治郎だ。なんてやつなんだ。あいつは本当にすげえよ…。

近づくのを躊躇うほど感情と表情が一致しない女の人。
それが氷柱・明道ゆきに自分が一番最初に抱いた印象であり、彼女を苦手な理由の一つだった。


――――次に、二つ目の理由は『明道ゆき先生が厳しすぎる』からである。

もう本当にあの人厳しいの。厳しすぎて吐くくらい厳しいわけ。明道先生本人は何もしないでニコニコ笑ってるだけなんだけど、彼女の下に就いている人達が怖かった。氷柱邸での研修はあまり思い出したくない。色々な教師達がギュッギュッと知識を詰めてくるだけではなく、日夜、鍛錬鍛錬鍛錬の繰り返し。逃げようとしたら直ぐに教師の一人に捕まえられて訓練の量を増やされた時は泣くかと思った。

(特に真菰さんが厳しかったな…。めちゃくちゃ可愛かったから幸せでもあったけど…)

炭治郎の姉弟子であり、明道先生の継子でもある超絶美人の真菰さん。最初に顔を合わせたときは可愛すぎて「結婚!!」の文字しか浮かばなかったくらいだ。それほどまでに美しい女の人だった。

まあ、手合わせでボコボコにされるんだけど!!

炭治郎の姉弟子なだけあって死ぬほど強かった。可愛い顔に反して攻撃が本当にエゲつないの。俺、真面目に死ぬかと思ったもん。しかも、真菰さんは座学の授業でも厳しく、嫌がる伊之助を椅子に座らせて筆を取らせた猛者である。あの一件以来、伊之助は真菰さんと明道先生だけは「マコモサン」「アケミチセンセー」と呼ぶようになったほどだ。

余談だが、あの後、明道先生にこの『真菰さん事件』を言ったんだが、微笑まれるだけで終わった。その笑みを見て、「アッそうだこの人がこの研修の監督だった。俺を地獄へ突き落とした張本人じゃん…」と気がついて心が痛かったものである。

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