ハーメルン
氷柱は人生の選択肢が見える
其の十三: 「柱の力」


(並みの鬼ならこれで既に死んでいる! 下弦の鬼なら頸を取れていただろう! 上弦の鬼は強い、強いな!)

猗窩座を見ると、ズレた四肢を驚異的な速さで再生させていた。炎柱と恋柱の渾身の攻撃をいとも容易く完治させる上弦の鬼は非常に脅威である。列車の爆破による火傷や傷も既に治っているようだった。本当に同じ世界に住む生物なのか。様々な鬼と対面してきた煉獄でさえ、思わず「化け物か」と呟きそうになるくらいの強さである。

炎柱の内心を知って知らずか、猗窩座は非常に興奮した様子で声をあげた。

「素晴らしい剣技だ。素晴らしいぞ、杏寿郎ともう一人の柱! 確かお前は甘露寺と言ったな? 下の名は何と――――」
「あら、名を気にしている場合ですか?」

猗窩座の言葉を遮るのは蟲柱・胡蝶しのぶだ。煉獄と甘露寺と共に駆け出したのにも関わらず、長い間沈黙していた彼女は、二人の間からスルリと現れる。炎柱と恋柱の攻撃が終わった瞬間、狙ったように胡蝶はこの場へ登場した。いつもの笑みを顔に携えながら、そのまま彼女は猗窩座へと身体を近づける。本来なら胡蝶は技を放つ体勢を今から取るのだろう。だが、今回ばかりは違った。

蟲柱は『既に攻撃を放っていた』のだ。

胡蝶しのぶの日輪刀が月の光を反射してキラリと輝く。猗窩座が息をつく暇もなく、神速の突き技が上弦の頸へと叩きこまれた。

――蟲の呼吸・蜂牙ノ舞『真靡き』!

「流石だ、胡蝶!」

胡蝶の攻撃が通った場面を見て、俺は彼女への称賛の言葉を口にする。

煉獄・甘露寺・胡蝶三人の戦術の要は煉獄と甘露寺ではない。蟲柱・胡蝶しのぶだ。
炎柱と恋柱で敵の視界と意識を奪い、二人の後ろに隠れた胡蝶が毒の刃で刺す―――その一連の流れが煉獄・甘露寺・胡蝶三人で柱同士の模擬戦で編み出した戦い方だった。

詳しく戦法を説明すると、初めに炎柱と恋柱が敵へと攻撃を入れ、それと同時に、二人の背後で蟲柱が技を放つ体勢を取る。煉獄と甘露寺の攻撃が終わった瞬間、間髪を容れずに胡蝶の技を敵へと届かせる、といった戦法だ。

――――蟲柱・胡蝶しのぶは鬼の頸を切れぬ柱である。

小柄な身体のせいか、鬼の頸を落とすまでに至ることができない。しかし、腕力がなくとも胡蝶には鬼殺の毒を作成する頭脳を持っていた。加えて、神速ともいえる速さと、その速さを活かして岩すら貫く剣の腕もあったのだ。あらゆる種類の毒を調合し、戦いの場において各鬼に合った毒を瞬時に判断し、神速の剣をもって鬼を滅する――――この所業は胡蝶しのぶにしかできぬだろう。

(胡蝶を柱たらしめるのは、何も毒や剣の才だけではない)

蟲柱は前線での指揮官としての手腕も一流だ。明道がいない隊で指揮をとるのは必ずと言っていいくらいに胡蝶になるほどである。だからこそ、この恋柱・炎柱・蟲柱三人の戦術の要が『胡蝶しのぶ』になったのだ。彼女は敵と剣を交える場面の瞬間的な指揮においては氷柱・明道ゆきを上回る。たった一瞬で生死を分ける戦闘の最中、戦況を的確に理解し、不具合があれば修正し、作戦通りに行動に移すことができるのは、現状、この場においては胡蝶しのぶのみだ。

(やはり、どの柱も尊敬すべき者達ばかりだな。流石はお館様が直々に選び、柱の位を授けた猛者達だ)

そう考えていた時、胡蝶しのぶの突き技が直撃した猗窩座は笑った。毒が回り、血管が浮き出て青白くなった上弦の姿は『悍しい』、その一言だ。上弦の鬼は崩れた体勢をすぐに立て直して、こちらを見据えてくる。列車爆破による大火傷も、恋柱による剣撃も、全て完治させた挙句、蟲柱の攻撃により受けた毒も、直ぐに体内で解毒し始めているようだ。

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