其の十四: 「知略の刃」
異次元バトルが繰り広げられている…。
列車の影に隠れて柱と上弦の戦いを見守るのを今すぐに止めたい気持ちになった。私、明道ゆきの顔が段々と引きつっていくのが分かる。上弦に切られた左腕や骨折の痛みに苦しみながら自分の顔面を右手で押さえた。思わず内心で私は叫ぶ。
(なんだあのデタラメ人間の万国ビックリショーは?!)
怖い。柱が怖い。猗窩座も怖いが、仲間であるはずの柱も怖い。上弦は仮にも人外というレッテルがあるから、あれほど強くても「まあ…人じゃないから…」で済ませることができる。
だが、柱は別だ。
お前ら人間じゃなかったっけ。猗窩座との戦闘シーン、速すぎて最早残像しか見えなかったんですがそれは。気がついたら猗窩座の身体に攻撃が通っていたり、外れていたりするので何が何だか分からない。マジで怖い。「原作やアニメでの戦闘シーンはかなりゆっくり表現してくれていたんだな」が凡人に今できる唯一の表現方法である。実況とかマジで無理です。
「いつも柱の戦闘を模擬戦や鬼との戦いで見ていたはずだったんだけどなあ…」
思わず溜息を吐く。本当に明道ゆきには剣の才能がねえんだな。自分と柱の間にエベレスト並みの実力差があるのに全く気がついていなかった。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。なぁーにが「柱と上弦の戦いには加われるくらい強くなった」だよ。参戦どころか序盤でやられる役にしかならねーよ。
後さ、一つだけ言っていい? どうやって柱達はこの場に来たんだよ。何で登場出来たんだよ。お前ら四人が分からなくて辛い。意味不明すぎる。だが、まあ、それはいい。なんとか自分の死亡フラグをへし折れたから、その疑問は解消しなくても良いのだ。他の事案が問題なのだ。
(はーーーまだまだ問題がありすぎて辛い!)
怪我ではなくストレスで胃が痛くなるのを感じながら私は頭を抱えた。現在、自分を悩ませているのは何も柱との実力差だけではない。特に困っているのは『上弦の参戦で煉獄が死亡しないどころか、寧ろ猗窩座が殺されるのでは』問題である。
(どうするんだこの状況)
以前にも述べたとは思うが、無限列車編での上弦の参戦での『煉獄杏寿郎の死亡』と『猗窩座の逃亡』は必要不可欠な展開である。特に『煉獄杏寿郎の死亡』は鬼滅の刃に於けるターニングポイントの一つだ。彼の死が回避されてしまうと、更に原作から乖離することになるだろう。結果、その先の展開に予測がつかなくなり、『上弦の鬼を二十五歳までに打倒しなくては死ぬ』呪いの解除が難しくなるに違いない。それは困る。ひじょーーーーに困る。
(ただでさえ今回で『明道ゆきと上弦の鬼との間には努力では埋まらない実力差がある』って気がついたのに…!!)
真面目に泣きそう。現実が辛すぎて胸が痛い。しかもさ、何? 私の左腕がなくなっちゃったんだけど…? もう辛い。つらすぎる。お家に帰りたい。引き篭もりたい。心が折れる。
また、今回、原作通りに進んでもらわないといけない理由がもう一つあった。この無限列車編は『必須負けイベント』だからだ。負けがあるからこそ次の勝利がより輝きを増し、柱の死亡により戦いに緊張感が生まれる。竈門炭治郎が何もできないまま炎柱が亡くなり、己の無力さに苦悩することに意味があるイベントなのだ。故に、炎柱の死亡と猗窩座の生存は必須だといえた。
(そもそもどうして煉獄杏寿郎が生き残りそうなんだよ。それどころか何で猗窩座は殺されそうなんだよ!!)
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