ハーメルン
氷柱は人生の選択肢が見える
其の三: 「水柱は首をかしげる」

俺の名前は冨岡義勇。

一応、お館様から『柱』の位を頂いている水の呼吸の使い手だ。

俺は今、縁側に腰掛けながらとある二人の柱の練習試合を見ている。一人は炎柱の煉獄杏寿郎、もう一人は氷柱だ。二人とも日輪刀ではなく竹刀を使っての練習試合をしていた。本来、柱同士の戦いなら己の呼吸の良さを存分に使った良き戦いが観れるのだろう。だが、今回ばかりは違った。何故なら、炎柱の煉獄が戦っているのが氷柱だからだ。

「むう! 前より強くなったな。中々攻撃が通らない!!」
「煉獄にそう言われると自信が湧きますね」

煉獄が嬉しそうに声を上げると氷柱は小さく笑みを浮かべる。ここの会話を聞いておかしいと思った者もいるだろう。まるで先生と生徒の会話のようだと。現に、戦いで付いた汚れは氷柱の方が炎柱の煉獄より遥かに多かった。柱同士の戦いでこれは明らかに不自然だ。

この戦いで分かることはただ一つ。
氷柱の剣士としての実力は柱に至っていないということだ。

(普通であれば彼女は『氷柱』になるべきではない。だが、彼女は柱になるべき人間だ)

矛盾した考えだが、この考えが正しいからこそ彼女は柱に至った。氷柱たる彼女は確かに剣客としての才能はない。しかし、別の分野――――戦術・戦略家として優秀だったのだ。

今、氷柱は炎柱の煉獄杏寿郎と一対一で戦っている。ただ純粋に剣の腕を磨くためだけの戦いだ。彼女は確実に炎柱に負けるだろう。だが、これがもしも隊単位での戦いなら話は違ってくる。例えば、勝利条件は隊長を倒すことで、お互いが一般人二名と階級甲の隊士一名を連れて山の中で戦え、と言われた場合。

この場合、必ずと言っていいほど氷柱が勝利するのだ。

彼女は圧倒的な空間把握能力と頭の回転の速さ、並びに、人をいかに上手く使えば労力が少なく敵を倒せるかという戦術の組み立てに優れていた。初めての森でさえ、まるで見知った場所かのように全速力で駆けることが可能。その上、そこに予知じみた戦略が加わるのだからスキがない。

その彼女の優秀な頭のおかげで、『氷柱の率いる隊に入れば絶対に生き残れる』と言われるほどだ。まあ、『絶対に』生き残れるわけではないが、氷柱が率いた隊の生存率は八割を超えていた。驚異の生存率だ。

(だが、それでも彼女が『柱』に至るのは難しいと考えられていた)

戦闘能力面からみて、柱になる条件である『十二鬼月の打倒』もしくは『鬼を五十体倒す』のは難しく、柱にはなれないだろうと言われていたのだ。彼女が任務に加わった隊全体が倒した鬼の数は多いが、自身が実際に頸を切った鬼の数は少ないという矛盾を抱えていたからである。

しかし、ある時、彼女は下弦の参、肆の二体から負傷した隊士二名と村人三十名を守り切り、下弦の肆の打倒に成功した。

これだけ聞けばまるで一人で下弦の肆を殺したかのように聞こえるが、実際に倒したのは負傷した隊士だという。本来なら彼女ではなく負傷した隊士が下弦の肆を殺したことになるのだろうが、この時ばかりは少し事情が違ったのだ。のちに、下弦の肆を殺した隊士はこう語った。

「確かに私は下弦の肆の頸を切りました。切りましたが――本当に倒したのは私ではありません。彼女です。彼女の戦略がなければ一般人を守ることも、下弦の肆を殺すことすらもできなかったでしょう」

これを受けて、お館様は特例として『戦略に優れた隊士』を氷柱として迎えることに決めた。戦略をもってして下弦の肆を倒した者だからと。勿論、反対の声は上がった。彼女が氷柱になるには他の柱より剣士としての腕が明らかに劣っていたからだ。しかし、時が経つにつれ、その声も減っていった。

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