ハーメルン
氷柱は人生の選択肢が見える
其の三: 「水柱は首をかしげる」

「大丈夫です、決めております」

少し強張った顔だったが、確かにはっきりと氷柱は言っていた。随分と真っ直ぐな瞳をする女性だと思ったものだ。ちなみに、この会話は偶然耳に入ってしまったものである。聞くつもりはなかった。

これは余談になるが、氷柱と俺が初めて出会ったのは彼女がその会話を終えた後、廊下でばったり会ってしまったことがきっかけだ。その際、彼女は沢山の資料を抱えており、俺に遭遇したことに驚いたのか紙をぶちまけてしまった。拾うのを手伝ったことから氷柱との交流が始まったのである。

当時のことを思い出しながら饅頭を口に含む。酷く甘い味がした。

(彼女と交流するようになってからは色々あったな…)

文通をするだけではなく、芝居を観に行ったり、流行りのカフェーに行ったりもした。一時期、彼女と何度もばったり会うこと多々があり、「折角だから行きませんか?」と言われたのだ。芝居だのカフェーだのは行ったことはなかったが、行ってみれば中々興味深かったな。特にプリンアラモードというのを食べる彼女は幸せそうだった。

考え事をしながら食べると食べ物は直ぐになくなるらしい。彼女からもらった饅頭はもうなくなってしまっていた。饅頭を包む紙を綺麗に折りたたみ、ふうと息を吐く。それと同時に茶が飲みたいなと思った。その瞬間、すかさず横から湯のみが差し出される。

「冨岡、飲みますか? 隠の方が入れてきてくれたんです」
「…ああ」

本当に彼女は俺の心を読んでいるような気さえしてくる。本人に真面目な顔で一度聞いたことがあるが、「そんな、まさか!」と笑われてしまった。鼻がいいだの、耳がいいだの、そういうわけではないみたいだ。ひとえに氷柱の頭が良いから俺の言動を予測してしまうだけかもしれない。

彼女から茶を受けとり、ズッと啜ると身体が温かくなる。身体どころか、心も何故かホワ…と温かくなるのを感じた。それに再び首を傾げ、胸を押さえてみる。彼女と会話すると胸がホワホワするのはどうしてなのだろうか。

(まあ、いいか)

悪くはない気持ちだ。特に考えなくても良いだろう。そう判断して、俺はもう一度茶をすすった。

[9]前 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:3/3

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析