ハーメルン
氷柱は人生の選択肢が見える
其の四: 「地獄の柱合裁判」

私の横に主人公、竈門炭治郎がいる件について。

まるで前世の大型掲示板に投稿する際のタイトルのような言葉を心の中で呟く。生前の記憶に縋り、現実逃避でもしなくてはやってられなかった。なんせ、私が直面している状況が今世最大の胃痛事案だったからだ。

――私、原作の『柱合会議篇』のシーンにいるんだけど。

(帰りたい。切実に)

思わず内心で私は頭を抱えた。いつも柱合会議中には帰りたいと考えているが、今日は特に帰りたい。頼む、帰らせてくれ。真面目に胃痛がしてきた。……え? この場から立ち去りたい理由? そんなのありすぎて語れねえよ。察せ。だが、もしも無理やり分類してみるなら大きく分けて二つある。

一つ目は柱達がかつてない程にピリピリしていること。

理由は言わずもがな、主人公・竈門炭治郎だ。彼は鬼狩りなのにも関わらず、鬼になってしまった妹・禰豆子を連れて鬼殺を行っている。鬼を殺す人間が鬼を同行させている――鬼殺隊の面汚しもいいところだ。また、それと同時に隊の根源を揺るがしかねない所業である。

(読者であったころの生前の私なら鬼殺隊の体裁だとか、隊の規律だとかどうでもいいと言えたんだろうけど…)

あの頃の私ならきっと「ここまで柱達、炭治郎に辛く当たらなくてもいいじゃん! 禰豆子は人を襲わねえよ!」と言うに違いない。だが、実際に鬼殺隊に入隊して『鬼が人間を襲わず、守るなんて有り得ない』ということを身をもって知った。鬼という生き物はどれだけ耳触りのいい言葉を吐こうとも、普通の人間のように生活していても、必ず人を襲う。人を喰らおうとする。人を裏切り、人を化かし、人を危機に陥れる――そういう存在なのだ。

鬼狩りになってから鬼の愚かさと救いようのなさを身に染みるほどに知った。なるほど、これは確かに皆が皆、揃いも揃って炭治郎を否定するはずだと腑に落ちたものである。原作知識を持ち、鬼の義父に育てられた経験のある私でさえ、『漫画通りに禰豆子は本当に人を殺さず、守るのだろうか』と一時期は半信半疑になっていた程だ。

前世の記憶持ちの私がそうやって疑ってしまうくらいなのだから、他の鬼狩りの考えなんて火を見るよりも明らかだろう。早々に柱達は『鬼を連れている隊士と鬼ブッコロ』状態である。気性が穏やかな者達でさえ『うーん、早く鬼を殺すべきじゃないかな』という顔をしていた。

(みんなピリピリしすぎでしょ!! あまりにも怖すぎる。帰りたい)

特に鬼へ怒りや恨みを抱いている一部の柱の顔なんか恐ろしすぎて見ることが出来ない。マジで怖い。帰りたい。救えないことに柱の中でも鬼への想いが一段と強い奴と一緒にこの場へ来てしまった。チラッと横を見ると今にもブチギレそうな男――風柱、不死川の横顔が見える。咄嗟に見たことを後悔した。

(怖ッ!! いつもより三割増しで怖ッ!!)

先程まで私と風柱の不死川は合同任務だった。任務が終わってすぐに会議があるということで共にここまできたのである。それが全ての間違いと気がつくべきだった。

鬼殺隊本部、産屋敷に入った瞬間目に入る強張った顔の柱達。
気絶した状態で地面に寝かされている主人公・竈門炭治郎。
屋敷の端の方で一人たたずむ冨岡義勇。

コンマ1秒で「アッこれ原作の柱合会議ですね分かります」となったものである。あまりにも見覚えがありすぎて回れ右をしたくなった。だが、出来ない。出来るはずがない。なんせ私も柱。腐っても柱。不死川に何度も「お前弱すぎだ」と言われようとも柱なのである。私は引きつる顔を抑えながら柱達の中に入るしかなかった。

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