ハーメルン
氷柱は人生の選択肢が見える
其の五: 「風柱は認めない」


だが、奴が一級品なのは知略のみだ。何故こんな女が柱になった。どうしてこんな、こんな阿婆擦れがお館様から柱の位を戴いたのだ。剣士としても、人としても未熟な人間が。

胸に走った痛みを怒りで覆い隠し、その日、俺はあの女と戦った。最終的にはこちらが勝ちを収める結果となったが、納得はしていない。剣の腕なら俺の方が遥かに上なのは分かりきっていたからだ。


――――こうして俺は氷柱を嫌いになったのである。


あの時の様々な感情を思い出して再度ため息を吐く。ちらりと隣を見ると冒頭で団子を食べていた氷柱はお手拭きで手をふいていた。それを視界に入れながら先日の竈門炭治郎及び鬼の禰豆子を思い出す。それと同時に、この女が言った言葉も。

(鬼を連れた隊士を己の寺子屋で学ばせるだと? 意味が分からねえ)

氷柱は通常の柱としての業務以外に寺子屋経営がある。これは女が柱になる際に希望したものだ。なんでも、鬼に親を殺された孤児を集め、鬼狩りにするための教育を効率よく施すためだとか。「育成には育手がいるだろ」や「忙しい現役の柱が教育に手を取られすぎるな」と言いたいところだが、お館様が許可を出しているだけに何も言えない。その上、この寺子屋の経営は存外上手くいっているらしく、その寺子屋の出身者から最終選別での合格者が何名か出たとのことだ。実績を残したことにより益々寺子屋の規模は大きくなるだろう。現に、鬼狩りの卵の育成以外に、既に隊士となった各階級の者達に対する研修も氷柱の寺子屋で行うことが決定したそうだ。

(その寺子屋で竈門炭治郎と鬼を研修させたところで何になる? 何をしたいんだ、この女は?)

氷柱は『人を殺したことがないとはいえ、鬼である妹を連れた鬼殺隊士を隊内で認めるか否か』の意見について否定も肯定もしなかった。ただ竈門炭治郎及び鬼を引き取るとだけ言ったのだ。なんだそれは。肯定か否定、どちらかをしろよ。何故、全く論点が違う発言をするんだ。いや、この女だから分かってやってんだろーな。

「やっぱりオメェは嫌いだ」
「不死川、何か言いましたか?」
「死ね」
「唐突ですね?!」

驚いた声を出すわりには慌てた様子を見せない氷柱にイラッとしながら、俺は団子を食らった。甘ったるい団子を歯で噛み砕きつつ目を閉じる。

きっと俺とこの女は相容れない。
鬼がいなくなる、その日まで。

それを改めて実感した俺は静かに息を吐き出した。

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