ハーメルン
氷柱は人生の選択肢が見える
其の九: 「困惑列車」



――――あれは上弦の参・猗窩座だ。


「本当に待ってくれ!!」

心からの叫びが喉から思わず飛び出た。ギョッと目を見開き、慌てて引き返そうとする。だが、選択肢パイセンに縛られた自分の身体は半裸姿で猗窩座の方へ一直線に進んでいた。このままでは上弦の参に斬りかかる羽目になるだろう。それに気がつき、サッと血の気が引くのが分かった。

(さっき私が半裸にならされたのは…まさか…)

筋肉を盛大に晒す猗窩座に合わせるためだったりするのか?! 嘘だろう?! そんな気遣い必要ねーよ!! そもそも猗窩座がどうして線路上にいるんだ。原作での登場の仕方は『列車の転倒後、空から飛び降りるように登場』だったはず。なのに、何故。

(もしや列車が転倒しなかったからか…?)

そんなことってある?! ああ、もう意味が分からない。理解できない。命の危機に現実から目を背けたい。恐らく、先程の大きな揺れは『炭治郎達が下弦の壱・魘夢を倒したことによる揺れ』なのだろう。だが、原作のように転倒には至らなかった。理由は簡単だ。漫画とは違い、炭治郎達が眠らなかったからである。下弦の鬼は列車との一体化が未完だったため、奴を倒しても転倒とはならなかったのだろう。

(よ、予定と違う!! このまま上弦の参・猗窩座と出会わずに下車できるはずだったのに…!)

に、逃げたい! 今すぐ離脱したい! そうは思っても自分は列車の屋根を走り、先頭車両に向かう羽目になっている。猗窩座の方を見ると彼は既に構えをとっており、この列車を止めようとしているではないか。やっ、やめて。マジでやめて。死の恐怖に私は打ち震えた。だが、選択肢に身体を縛られている現在、逃げることは叶わない。唯一動く口を使い、腹から力を入れて叫んだ。

「竈門ォーーッ!! 我妻ァーー!! 嘴平ァーーッ!! 後方車両へ移り、列車に技を放てェーーッ!」

線路上にいる猗窩座が技を放つと同時に私も列車から飛び立った。今、選択肢からの呪縛が解けたが、もう後戻りはできない。私は覚悟を決めて息を吸う。自分の口からビュオォオォと吹雪くような音が発せられた。師にこれでもかと叩き込まれた動作の通りに明道ゆきの身体が動く。次の瞬間、『技』を放った。

――氷の呼吸・参の型『墜ち氷柱(つらら)』!

つららの如く鋭い斬撃が上から下へ落ちるように私の刃から繰り出された。

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