ハーメルン
見つけられなかった私の戦車道
ifルート:名無しの少女はミカになる

【ルミ視点】

「トウコ、ミカの奴は今日も来てないのか?」
「いや~、私は見てないですね。リリは?」
「私も見てないです」
「また今日もサボりかー? もう3日だぞ。何かあったんじゃないだろうな」
「無理もないですよ。レギュラーに選ばれて初めての試合で何もできずに撃破されたんですから。それも撃破された相手が同学年となれば尚更ショックですよ」

 リリに言われて先日の試合のことを思い出す。あの試合、確かにミカは一騎打ちの末に何もできずに撃破された。けどあれは相手が悪かった。

 西住まほ、あれは怪物だ。正直私も一対一じゃ勝てる気がしない。それどころかあいつに勝てる奴なんて今の日本にどれだけいるかってレベルだ。それくらい今の西住まほは異常なんだ。
 元々西住流の後継者として昔から高い評価は受けていたみたいだし、国際強化選手に選ばれるくらいだから実力はあったんだろう。
 けど最近の彼女の強さは尋常じゃない。正直愛里寿隊長ですら万が一がありえる、そう思ってしまう程には。

 一体いつからあそこまで化けたのか。

 大学に入ってから?

 ドイツに留学してから?

 あるいは。

 妹の西住みほが死んでからか。

「ミカがそんなタマかね~? 勝とうが負けようがいっつも飄々としてるイメージなんだけど。むしろ負けても『勝ち負けに拘ることに意味があるとは思えない。ポロロ~ン♪』とか言ってそうだけどね~。……あ~、でも最近はそうでもないか?」

 トウコの言葉に意識を現実に引き戻される。今は西住まほのことよりもミカのことだ。
 そう、以前のミカなら私もここまで心配はしない。講義をサボろうが、練習に来なかろうが、その内来るだろうと放置するだろう。
 けど今のミカに対してはそんな楽観的な考えては抱けなかった。大学に入ってきたミカは以前とは別人だったから。
 真面目に戦車道に取り組んでくれるのはいいけど、どうにも何かに急き立てられている印象があって心配はしていた。
 トウコの言う通り高校時代のミカは勝ち負けに拘る様な性格じゃなかった。それが今では逆にとことん勝敗に、勝つことに拘るようになってしまった。

 ただ純粋に戦車に乗るのを楽しんでいたあいつはどこに行ったんだ?
 そういえば大学で再会してからあいつがカンテレを弾いているところを見たことがない。
 私があげたチューリップハットは後輩の子にあげたということだから、カンテレもそうなのかと思ったけどそうではないらしい。

 そんな状態のミカが3日も音沙汰がない。心配するなという方が無理な話だ。
 とりあえず電話してみるか、と私は携帯を取り出す。
 コール音が鳴る。1回、2回、3回……。
 出ない。
 まあ駄目で元々くらいの気持ちだったし仕方ない。然して期待していなかった私はそのまま通話を切ろうとして――

『……ルミ……?』

 そこで応答があった。

 突然のことに慌てながらも私はミカに声を掛けた。

「もしもし、ミカ? もう練習始まるぞ。一体今どこ――」
『ルミ』

 私の言葉を遮ってミカは尚も私の名前を呼んだ。
 その声音はミカが出したとは思えないくらい弱弱しかった。

『助けて……』


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