ハーメルン
見つけられなかった私の戦車道
西絹代の求道

 でもどうしても言わずにはいられなかった。絹代には私の二の舞にはなってほしくない、あんな辛い気持ちは味わってほしくないと、そう思ったから。

「申し訳ありません、私が浅はかでした。己の至らなさに羞恥を覚えます。アンチョビさんに言われたこと、しかと胸に刻み込みます。決して忘れはしません!」
「分かってくれたならよかった。その気持ちを忘れなければ、お前は私のようになることはないだろうさ。……それにその気持ちは、自分の戦車道は何かという問題の答えを得る鍵になるかもしれないしな」
「それは、どういう?」
「さあな、あとは自分で考えろ。他人から教えてもらったものじゃなく、自分自身で悩んで出した結論でないと意味がないだろう?」
「はい、全くもってその通りです」

 正確には教えたくても教えられないと言った方がいいのかもしれない。
 たぶん私とみほが求めていた戦車道は似ているんじゃないかと思っている。だからアドバイスもできたが、それに対して絹代の求める戦車道については私とはまた違ったものだと感じられる。
 しかし根底にあるものは似ているとも思う。それを自覚した上で絹代がどんな道を選ぶのか、楽しみにさせてもらおう。

 さて、これで胸にわずかばかり残っていた不安も解消された。これで話は終わり、でもいいんだろうが……。

「なあ絹代、改めて聞く。車長に戻る気はないか?」

 最後に私はもう一度だけ聞いてみることにした。
 無理強いはしないなどと言っておいて何だが、今なら絹代の考えも変わっているんじゃないかと思ったから。
 絹代は私の問いに目に見えて狼狽えていた。

「ですが、私はまだ……」
「自分の戦車道を見つけられていないから、か?」
「はい……」
「なあ絹代。お前は真面目だから、ちゃんとした答えを出せないと納得できないのかもしれない。けどな、迷ってもいいんだよ。立ち止まって考えることも時には必要だろうが、進んでみて初めて見えてくることもある。さっきも言ったがお前なら、仲間を大切にしたいという気持ちを胸に刻んだ今のお前なら大丈夫だと私は信じている。
 だから迷いながらでもいい、少しずつでもいい。一歩進んでみないか?」

 これでも断るというならもう仕方がない。別に無理強いする気はないというのは嘘偽りのない本音だし。
 絹代は何か言いかけて口を噤み、しばらくの間顔を俯かせて考え込んでいた。私は急かしたりはせずに絹代の返事を黙って待った。
 すると絹代は徐に一歩下がってその場で床に手をついて深々と頭を下げた。

「分かりました。非才の身ながら、全力で務めさせていただきます!」

 そして勢いよく顔を上げると、私に向かって堂々と宣言した。

「そしていつの日か、これこそが私の戦車道であると、そう胸を張って言えるようになってみせます!!」

 私は絹代の返事に満足げに頷くと、手に持った杯を掲げた。絹代もそれに倣う。
 そしてそのまま杯を合わせて三度乾杯した。

「頑張れ」
「ありがとうございます!!」

 絹代の進む道がどこへ続いているのか、それは私には分からない。ただ、決して容易な道でないことだけは確かだ。
 けどきっと絹代なら、今の絹代なら道を見失うことはないと確信を持って言える。
 だって目の前の絹代は吹っ切れたような晴れ晴れとした笑顔を浮かべているんだから。

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