井手上菊代の誓い
そんなある日、私は奥様に呼び出された。二人きりで話がしたいと。一体何を言われるのか、何か怒らせるようなことをしてしまっただろうか。私は緊張の面持ちで奥様の言葉を待った。
身構える私に対して奥様は言ったのだ。
自分はいずれ西住流を継ぐ。しかしその重責はきっと一人で耐えきれるものではない。だから今までと同じようにこれからも自分を支えてくれないか、と。私の力が必要だと。奥様はそう言ってくださったのだ。
私は嬉しかった。奥様は私の憧れだった。ずっとこの人のようになりたいと思っていた。そんな人から自分が必要とされたことが、認められたことが何よりも嬉しかった。
そして決めたのだ。
一生この方を支えていこうと。
この命ある限りこの方の傍に居続けようと。
それがともに戦車道を学び、ともに成長し、ともに青春時代を過ごした戦友としての私の務めだ。そう思った。
戦友。そう、戦友だ。私と奥様は戦友だった。
私と奥様は今でこそ主従の関係だが学生時代は違った。隊長と隊員という意味では主従の関係とも言えるが、私たちの関係はそんな浅いものではなかった。
ともに学び、戦い、助け合ってきた。奥様には随分とお世話になったし、逆に私が奥様の手助けをすることもあった。そうやってお互いに支え合ってきたのだ。
私はあの時の気持ちを再び思い出した。
そして改めて誓いを立てた。
例え奥様がどんなに変わり果てようと。
私は死ぬまでこの人の傍にいよう。
この人が西住流に一生を捧げるというなら。
私もこの人のためにこの身を捧げよう。
それが私の、この人の戦友としての務めなのだから。
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