ハーメルン
見つけられなかった私の戦車道
秋山理髪店の看板娘

【赤星小梅視点】

 その店に入ったのはただの偶然だった。

 そろそろ髪を切らなきゃと思っていた矢先、いつも通っていた美容室が閉店してしまって。また新しいところを探さなきゃと考えながら外を歩いている時にたまたまその店が目に入った。

 秋山理髪店。

 別に珍しくもないどこにでもあるような普通の店だった。
 古めかしい看板に反して建物の外観は新しくて綺麗なのに違和感を覚えたけれど、恐らくどこかから引っ越してきたばかりだったのだろう。
 どうしてあの時その店に入ろうと思ったのかは私にもわからない。
 どこでもいいから、ちょうど目に入ったから、その程度の理由だったのかもしれない。
 でも私にとってはあれはまさしく運命の出会いだった。
 店に入ると出迎えてくれたのは私と同い年くらいの若い女性だった。

 綺麗な人。

 それが私のその人に対する第一印象だった。
 ウェーブのかかった髪を肩まで伸ばして、優しい顔立ちと柔和な表情は見ているこちらに安心感を与えてくれる。雰囲気はどこか儚げで、触れたら壊れてしまいそうな繊細さを感じさせた。
 私は思わず見惚れてしまっていた。
 その人は入り口で突っ立っている私を見て一瞬驚いたように固まっていたけど、すぐに微笑んで頭を下げた。

「いらっしゃいませ」

 秋山優花里さん。

 それが彼女の名前だった。
 聞けば私と同い年で、この春理容師の専門学校を卒業したばかりらしい。
 ここは元々ご両親がやっていた店で今は見習いで働いているとのことだった。
 そんな彼女とは不思議と会話が弾んだ。年が同じということもあったけど、何より優花里さんも私と同じクセ毛で毎日髪のセットに苦労しているという話がきっかけだった。
 苦労話で盛り上がっているうちに仲良くなって、カットが終わった後に連絡先を交換して、その後も個人的に電話やメールで連絡を取り合うようになった。

 私自身、自分の積極性に驚いていた。私は自分で言うのもなんだけど引っ込み思案で、初対面の人とこんな風にすぐに仲良くなった経験はなかった。
 なのに優花里さんとは何故か自然と打ち解けていた。
 理由はよくわからない。でも何か親近感があったのだ。
 単に髪質のことだけではないと思うけれど、何に対してそんなに親近感を覚えたのかはわからなかった。

 そんな風に何度かカットをお願いしたり、プライベートで会ったりを繰り返したある日のこと。
 私はいつものように優花里さんにカットをお願いしようと店に入った。

「あら、赤星さん」

 出迎えてくれたのは優花里さんのお母さんの好子さんだった。
 優花里さんのご両親とは既に顔馴染みだ。今日のようにカットをお願いするだけでなく、個人的に優花里さんの部屋に遊びに来ているうちに自然と仲良くなっていた。

「ごめんなさいね、優花里は今休憩中で買い物に行ってるのよ。もう少しで戻ってくると思うから、よかったらお茶でも飲んで待ってて」

 最初は申し訳なくて断ろうとしたが、「いいからいいから」と押し切られてしまった。無理に断るのもかえって失礼かと思い、結局お邪魔することにした。

「赤星さん、いつもありがとうね」

 お茶を出しながら好子さんは言った。

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