ケツアゴサイコ総帥に一生ついていきます
夕暮れに照らされるオフィスビル群。その間を流れるスーツ姿の雑踏に紛れ、私はふらふら歩いている。
今日の面接はうまくいった。私の経験、強み、企業で活かせるポイントをハキハキとアピールできた。服装も細かな所作も完璧だった。
でも結局ダメなんだろうな。
ポケットのスマホが振動。雑踏を抜け出し隅によって画面を見れば、メールボックスに新着メールが届いてる。内容はお祈りメールだった。
知ってた。ほぼ同じタイトルと内容のメールが百通近くメールボックスを埋めてるもの。高校の後輩からもらった励ましメールははるか後ろに追いやられてた。思わずため息が出て、またふらふらとあるき出す。
高校を卒業してから一年。私の虚しい就職活動の一幕だった。
『波動拳! 昇龍烈破!』
ビルの巨大なモニターの中では、日本にやってきた格闘技の全米チャンプさんが大暴れしてる。道行く人たちもみんなモニターを見上げて「おお」「ケン・マスターズが来てるのか」「試合録画し忘れちゃったよ」と嬉しそうだ。
なにさ、ちょっとケンカが上手いからってチヤホヤされてさ。私がこんなに苦労してるのに、拍手と歓声を集めて、娘さんをリングの上で抱っこなんかしちゃって。死に物狂いの自己PR鼻で笑われて拒絶される私へのあてつけか。私ばっかりなんでこんな――
「な、なんだあの子!?」
「あれ波動じゃないか? ストリートファイターだ!」
「だがあんなファイター見たことないぞ」
「あわわ!?」
しまった。いつの間にか波動が漏れ出てる。
漆黒と血のような赤を混合した湯気のようなものを、慌てて体に引っ込める。ふう、ネガティブになると出てくるの忘れてた。注目を振り切るように小走りで路地裏へ。
波動とはストリートファイター特有の技術だ。うまく使えば常人の数十倍の身体能力を発揮したり、ビームみたいに飛ばしたりできる。有名どころだとさっきのケンさんの波動拳とか、アメリカ軍人さんのソニックブームとか。
本来は厳しい修行の末にやっと習得するものらしいけど、私は就活してたら使えるようになってた。実は指一本でレンガも粉々にできるし、赤黒い波動を弾にして飛ばすこともできる。
だけど就活には使えないんだ。
『ええと、特技に波動拳とありますが、どういうことでしょう?』
『波動拳です。気を弾状にして打ち出します』
『なるほど。ではその特技でどのように弊社に貢献していただけますか?』
『競合他社をふっ飛ばして参ります!』
『面接を終了します』
中途半端にストリートファイターの才能があったって社会は必要としてくれない。それこそ全米チャンプレベルの実績があれば話は別だろうけど。
「はあ……」
最近、いやここ一年くらい何にもいいことがない。食事と睡眠以外の全部を就活にあててるのに手応えは全然だし、この前は変態に絡まれたし。人生辛いことばっかりだ。
細い路地を通ってビル群を抜け、郊外の住宅地へ。
あと数分で実家というとき、突風が吹き付けた。
「わ、何!? オスプレイ!?」
見上げるとテレビで見たような形の飛行機? が住宅地の細い道に下りてくるところだった。狭すぎて着地はできないみたいだけど、後ろのハッチが開いて人が飛び降りてくる。
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