ハーメルン
ケツアゴサイコ総帥に一生ついていきます【完結】
許されざる絶対悪

 セスのやらかし案件から二ヶ月。

 イメージアップ戦略は功を奏し、シャドルーは世界一の大企業として民衆に認識されるようになった。フロント企業の一画を改装して業務にあたっていた私たち生き残り組は、都心の一等地に堂々と建設した新本社ビルに移り、ますます仕事に精を出している。

 そんな本社ビルの上から二番目に、私のデスクはあった。

 デスクの前には本社組の中でもとびきり優秀な人員が横並びになっている。意図せず私の体から漏れ出ている殺意の波動のせいか、全員顔が青い。

「私は非常に気分が悪い」

 だけど彼ら以上に私の気分は最悪だ。理由はいくつかある。久しぶりにお母さんの夢を見て寝覚めが悪かったことや、お腹を出して寝てたせいか風邪気味で体が重いこともあるだろう。その中でも一番の理由が、彼らだ。

「まさか本社壊滅の危機を乗り越えたあなたたちの中から、反逆者が出るとはね」

 一番右に立つ男がびくりと肩を震わせる。どうやらエージェントの密告は本当だったらしい。

 私も鬼じゃない。シャドルー式お説教の前に弁明の余地を与えよう。

「今なら怒りません。正直に名乗り出る気はありませんか」
「……」
「このままでは連帯責任ですよ。一体誰なんですか――私の謝罪会見をリズミカルな面白動画に仕立てやがった外道は!」
「私です!」
「お前かっ! 歯ぁ食いしばりなさい!」
「ちょっ、怒らないって言ったじゃないスか!」
「怒ってません、上司として部下に業務上の指導をするだけです。ただしシャドルー式でね!」
「横暴だー!」

 横暴なのはこの人たちの方だよ。動画をアップするだけならともかく、勝手にシャドルー公式アカウントを作って投稿するのは限度を超えてる。公式が素材として認めたと勘違いした一般の人たちも便乗して、似たような動画が増殖しているせいで、私の扱いは副総帥から素材になっちゃった。

 これはよろしくない。ただでさえ最近は周囲から生温かい視線向けられることが多くて副総帥の威厳が損なわれてるっていうのに。情報課の人たちは「炎上に火消しは逆効果なんでしょ?」とか言って動画サイトの工作してくれないし。これを反逆と呼ばずなんと呼ぼう。

 というわけで制裁だ。

「大丈夫、ビンタ一発だけです。行きますよ」
「はあ、分かりました。どうぞ」
「……」
「どうぞ?」
「か、かがんでください」

 くっ、さすがシャドルーのエリートだけあっていいガタイしてる。私の身長じゃ届かない。

 微笑ましいものを見るような目を向けられたせいか、少し力が入りすぎた。反逆者はくぐもった声と共にきりもみ回転して飛んでいき床を転がる。残った容疑者たちの表情が固まった。しめしめ、副総帥ポイントが上昇したのを感じるぞ。

「鈍ってはおらぬようだな、ヤマウチ」
「あ、ベガ様。お疲れ様です」

 前触れもなくベガ様が現れた。真上の最上階が丸々総帥室になってるから、サイコワープで天井を抜けてお手軽に行き来できるんだ。

 その体はサイコパワーおばけじゃなく、セスの体を元に作った最新鋭ボディ。丹田エンジンを私の波動データで大幅改修したサイコドライブ改三を搭載していて、サイコパワー出力は生前の5倍だとか。もうちょっと改良の余地はあったけど、「いつまで待たせる気だ」と言われたので渋々復活してもらった。近々復活のお祝いをする予定。

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