ハーメルン
ケツアゴサイコ総帥に一生ついていきます【完結】
別視点3

 川沿いの土手に一人の女性が仁王立ちしている。灯りの乏しい深夜、高架を通過する電車から漏れ出た光が、彼女の美貌を映し出す。

 彼女は神月かりん。日本政府とも深い関わりを持つ神月財閥の当主にして、神月流格闘術を駆使する一流の格闘家でもある。万事において勝者であるべし、欲しいものは実力で手に入れるという家訓およびモットーに従い、あらゆる分野で勝者であり続けてきた。

 そんな彼女の生き方をあざ笑うような活動をしているのがシャドルーだ。

 世界を表舞台から支配するよう路線変更したシャドルーは、風水シリーズと呼ばれる健康グッズを売り出した。一般人でも波動の力が使えるようになる画期的なアイテムだという。

 幼い頃から鍛錬と実戦に明け暮れ、ようやく今の実力を手に入れたかりんには許せない商品だった。力とは金で買うものではなく、努力でつかみとるもの。ましてや波動の力を売りつけるなど言語道断だ。

 風水シリーズには隠れた欠点がある。一般人が垂れ流す微量の気を増幅、波動に練り上げる仕組みなのだが、増幅しても気が足りない場合は無理やり利用者の体から吸い出しているのだ。生命力である気を吸収されれば当然体調が崩れ、それでも使用を辞めない場合は寿命が削れることになるだろう。

 かりんだけでなく世界の格闘家たちは声を大にして商品の危険性を訴えた。しかし波動の力に酔った民衆は耳を貸さないため、直接シャドルーにクレームの電話を入れ続けるしかないのが現状だった。

 たとえ世間での覚えが良くなろうとも、人の命や力を軽んじるシャドルーはやはり悪の手先。いつかは神月の名に賭けて成敗する、と決意したかりんの元に朗報が舞い込む。

 シャドルーのナンバー2、山内アヤが一人でここを通りかかるというのだ。神月直属の密偵からの報告なので間違いはないだろう。

 財閥主幹の反シャドルー団体に連絡を入れる暇もなかった。可能なら今夜にでも山内を打倒し、しかるべき機関に突き出す覚悟で仁王立ちしているというわけだ。

「来ましたわね」

 土手の上を爆走する人影が見える。かりんは神月流の構えを取り影の接近に備える。

 しかし、姿を現したのは懐かしい顔だった。

「せんぱーい!」
「さくらさん?」
「えっ、かりんさん!? 先輩は!?」

 春日野さくら。常勝無敗のかりんに初の黒星をつけたライバルであり、優れた格闘家の女子高生だ。

 いつものハチマキ姿とセーラー服の彼女は、呼び止められるとその場で足踏みしながらかりんに向き直る。

「久しぶり! こんな時間に何してるの?」
「悪を成敗しに参りましたの。さくらさんは?」
「先輩を助けに行くんだ!」

 かりんはふと気づいた。さくらの波動が以前よりも力強くなっている。どうやら相当の鍛錬を積んだらしい。

「助けに、とは穏やかではないですわね」
「うん。ブラック企業に就職して、その企業のために無理やり悪いことをやらされてるみたいなの。実はさっきこんなメッセージが来て――」
『さくら、私はもうダメだ』
『取り返しのつかないことをしてしまった』
『悪に堕ちた。私の正義はもう死んだ。誰も私を許さないし、私も自分を許せない』
『生まれてきてごめんなさい』
「もうじっとしてられない、ってことで本社カチコミだよ!」

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