報ユル鬼
私が目を覚ました場所は、荒れ寺だった。
床は抜け落ち壁は倒壊、屋根は穴だらけで雨風もしのげないひどい状態。仏壇では金剛像だか阿修羅像だかがかっこいいポーズを決めている。
ここはどこなのか、なぜ忌まわしいリクルートスーツに着替えているのか、疑問は尽きない。
それでも最初にやっておかなければならないことがある。
「生きてるぅー!」
両手をあげて生を祝うこと。生きてるってなんて素晴らしいことなんだろう。あの体中から力と意識が抜けていく喪失感を一度味わえば、呼吸の一つすらありがたい。これからは命を大事に生きていきます。
「生きてはないですよ」
「ひえっ、誰!?」
「うわぁ、近くで見るとすごい怨念。荷が重いですよう、お師匠……」
振り返ると、エジプトの香り漂う変な衣装の女の人が立ってる。人が喜んでるのに水をさした上勝手にドン引きするなんて失礼な人だな。
あれ、でもこの水晶玉どこかで見たような。
「あ、急に現れて意味深なこと言い出すキャラクターさんか」
「都合のいいキャラみたいな覚え方しないでくださいよ。私はメナト、占い師です。一度会ったことあるでしょ?」
たしかに新人採用の時一度会ったことはあるけど、やる気のない冷やかしだと思ってほとんど忘れかけてた。まさか生き返った直後に出会うのがうさんくさい占い師さんとは。
「その節はどうも。それでメナトさん、私が今どんな状況か分かったりします?」
「します。それを伝えるのが私の役目ですから」
「やったぁ!」
うさんくさいなんて思ってすみません、メナトさんは最高の占い師です。こんがり焼けた褐色肌も健康的でいいですね。
内心で褒めちぎっていると、メナトさんが手に持つ水晶が目に入る。波動を流し込んでるのか淡く発光していて、手入れの行き届いた鏡のような表面に私の顔が――あれ?
「寝てる間にイメチェンしてる?」
私の髪の毛は真っ白に、肌はメナトさんみたいなこんがり褐色に変わっていた。まさか死んだ時のショックで髪の色が抜けたのかしら。でも肌の色は分かんないや。
それを含めて説明します、とメナトさん。首を傾げるのはやめて大人しく話を聞こう。
「さっきも言いましたが、山内さんは生きてません。ちょっと前にここを通りかかった鬼さんの言葉を借りると、魂なき影法師状態です」
「ふむふむ」
「意識と実体を保っているのは、無数の怨念のおかげです。山内さんの真っ黒な波動の残滓に惹かれて集まったはいいけど、みんな波動に呑み込まれて山内さんの姿が投影されてるってわけです。外見の変化は存在が変質したからでしょう」
「もうちょい分かりやすく」
「山内さんは実体のあるオバケになりました」
「なるほど!」
つまり、ベガ様がサイコパワーで生き残ったのと似たような原理か。考えてみれば、ベガ様と同じ理屈で体が滅んだなら似たような理屈で生き延びてもおかしくはない。体がフワフワして軽いのもオバケ効果だろう。
怨念が集まって体になってるのはいまいち分かりにくいけど、意識を体の内側に向けるとすぐに実感できた。私の同胞――特に誇れるものもなく、誰に望まれるでもない無念の声が聞こえる。
『面接落ちた、死のう』
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