硝子の王妃1431
「―――この結果にまさか、と驚いてみせるのはあるいはキミを甘く見すぎているか」
細剣の切っ先を揺らし、構え直すB・セイバーの視線の先。
そこには全身に傷を負い、血濡れになったランサーの姿がある。
その声には、串刺し公の宝具を浴びてまさかこうして生還してみせるとは、という称賛に似た響きがある。挙句、負った傷だってあの状況から何とか脱した、という状態にしては不相応に軽い。けして軽傷ではないが、けれど致命傷には程遠い。
「あの状況から余の槍をこうまで避けてみせるか……その体捌き、見事というより他にない」
「……チッ、こっちの槍を空振らせておいてよく言いやがる」
そう言い返す彼は、体の各所に穴を開けられている有様だ。ただ青い装束は大半が血で赤く染まっているが―――しかし戦闘には支障ない。アイルランドの光の御子ことクー・フーリンこそ、そのような大英雄。己が傷すらも凌駕し、戦い続ける事の出来る不退の戦士。
彼は口から血溜まりを吐き捨てると、再び真紅の槍を構えに入った。
「……ああ、いや。空振らせた、じゃねえか。オレが勝手に空振っただけなワケだ」
槍の穂先を僅かに揺らしながら、彼はそう呟いた。
そして自身の一撃が攻略されたにも関わらず、ランサーは不敵に笑う。
そんな男の顔を見たB・セイバーが軽く肩を竦めた。
「いいや、空振りなんかじゃない。あの一撃は確実に、キミが狙ったモノの心臓を貫いたとも。
何故なら私たちはキミのその槍を躱す手段も、防ぐ手段も持ち合わせていないのだから。なら私たちがどうにかしようと思えば、出来る事は限られているだろう。
―――たとえば、最初からキミに幻影を狙わせる、といったようなね」
「……それがテメェの宝具ってことか。よくもまあ、オレの槍にああも見事に合わせられたもんだ。完全に幻影こそをお前と誤認した。ならまあ、この結果も当たり前だ」
してやられた、と相手を認めつつも吐き捨てるように語るランサー。
その調子の言葉を聞きながら、腸を食い破り外界へと進出した杭を切り離すB・ランサー。
彼の方こそがこの状況に顔を渋く歪ませた。
「これが当然の結果と言うのならこちらこそがしてやられた、と言わねばなるまい。
ルーラーより貴様の真名も宝具も通達があり、二人のサーヴァントが宝具を開示した。だというのにも関わらずこの醜態。なるほど、これが音に聞こえしクランの猛犬と呼ばれる大英雄。
そう称賛するより他にあるまい?」
「……なるほど。そっちのルーラーには力があるわけだ」
背後の決戦、戦闘音は留まる事を知らず激しくなっていく。
自軍にあの竜が降臨したからには、バーサーク・サーヴァントたちは時間を稼げばそれだけで意味がある。あれ一頭で、こちらを十分以上に壊滅させられる戦力であることに疑いはない。
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