幻想大剣1431
「ッ、ファヴニール! 奴を狙え―――!」
天へと炎を吐こうとしていたファヴニールに黒ジャンヌの声が飛ぶ。
だがそれ以前に、とっくにファヴニールの意識は新たに現れた竜殺しに向かっている。
自分に届き得る剣。自分を殺し得る光。それが地上に現れた時点で邪竜は、自分の全ての力をもってあれを破壊することを決定していた。
「グゴァアアッ―――――!!!」
街一つを地獄に変えるだけの絶対的な熱量。
自分が討たれる前にそれを地上に立つ剣士に向けて解き放つべく、竜の頭が下を向く。
―――だが遅い。
竜が空へと身を躍らせた時点で、既に竜殺しは行動へと移っていた。
地上の竜を討つため魔剣を解放することに戸惑いがあったのは、その余波が地上を諸共に焼き払う憂いからだ。相手が自ら空を飛び、その悩みから解放された以上は止まる理由はありえない。
「“幻想大剣――――!!」
迸る真エーテルが刀身を覆い、光の刃を形成する。
彼の足が踏み砕くほどに大地を踏みしめて、剣を振るう姿勢に入った。
ファヴニールが大口を開く。
溜め込まれていた炎が怒涛となって天から地上へと押し寄せる。
集中した熱量はもはや光線じみて、眼下のジークフリートに差し向けられ―――
「天魔失墜”――――――!!!」
しかし、地上から天へと昇る黄昏の剣気に呑み込まれた。
熱線を塗り潰しながら逆行してくる蒼色の衝撃。
邪竜の息吹すらも、解き放たれた魔剣の輝きを止められずに追い返されていく。
「っ――――!?」
拮抗すら許さず、バルムンクの放つ剣気はファヴニールを呑み込んだ。巨体が自身を焼く光の中でもがくように動き、しかし悲鳴を上げることすら敵わない。数秒の間その光はしかとファヴニールを焼き続け、ジークフリートの手の内の剣から魔力の放出が止まると同時に消え失せる。
光の剣撃を受け終えると、全身から黒煙を吹き上げながら落下してくるファヴニール。その巨体が周辺一帯を押し潰しながら地面に落ちて、盛大に土砂を巻き上げた。
「おぉ……!」
思わずソウゴも感嘆の声をあげる。目の前で迸ったのは、堅牢だったはずの竜鱗さえ焼け落ちるほどの魔力の渦。相手の驚嘆すべき生命力の高さゆえ致命傷には届かなかったものの、それが相手を倒し得る一撃だというのは容易に理解できる。
が、今まさに竜を落とした剣士は、その剣を杖にするかのような体勢で膝を落とした。
「ッ……すまない。今は、ここまでだ……!」
「ありがとう、ジークフリート! マシュ、ジャンヌ、お願い!」
その彼に駆け寄る立香とマリー。そしてマシュとジャンヌがマスターの指示の許、それぞれ敵サーヴァントへ向けて駆け出していた。
落下したファヴニールの背中。バルムンクの攻撃範囲にいながらも、ファヴニールの巨体を盾に何とか耐えた黒ジャンヌが、体を起こしながら舌打ちする。
「ジークフリートが何故生きている……! 私の炎で燃やし、バーサーク・サーヴァントたちで確実に葬ったはず……!」
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