ハーメルン
喩え、この身が業火に焼かれても
7.Catch You!/Stay Away From Me

ビシャ、と。体液が地面に飛び散る。彼の白の毛並みが体液に染まっていく。人間はその様子を気にした素振りも見せず、その背中を軽く蹴った。ぼすっ、とLesser Dogの体が雪に倒れ、そして、ざらり、と、灰へと変わった。


「………」


装備を遺して消えていく様をじっと見ていた人間は、完全に灰になるまで見届けると、踵を返し、道を進み始めた。
暫くすると、また見張り小屋の前に差し掛かった。それも無視して通ろうとしたのか、足を踏み出した彼女の目の前に、にゅっと、犬の顔が出てくる。


「………今、何か動いたか? 気のせいかな?」


見張り小屋から顔を出したのは、Doggo(ワンボー)だった。暇潰しに噛んでいたジャーキーを咥えながら、彼は目を擦り、ぎゅっと細めて睨むようにして辺りを見渡す。そんな事をせずとも、人間は目の前にいるというのに。しかし、彼の視界には人間は映らなかった。


「おれは動く物しか見えないからなぁ……」


自分の欠点に少し苛立ちを覚えつつガリガリと頭を掻き、視界で探すことは諦め、Doggoは咥えていたジャーキーを指の間に挟んで鼻から遠ざけると、すんすん、と鼻を鳴らす。嗅覚で何か異常が無いか探ることにしたのだ。
彼は先程から誰かが近付いてきていることは音で分かっていたが、聞いたことのない足音に眉を顰めていた。


(知らねぇ足音……さっき走ってったPapyrusを除けば、今日ここを通ったのは街のガキ共とLesser Dogぐらいだった筈だが……)


王国騎士団に入団し、Snowdinに配属されてから長いこと此処で番をしている彼は、Snowdinの住民の足音を覚えてしまっていた。それなのに、どうして知らない足音がするのだろうか。疑念を抱いた彼は警戒していたのだった。
そして、目の前にいるであろうそれの臭いを吸い込んだ瞬間、ぶわ、とDoggoの全身の毛が逆立ち、思わずジャーキーを落としてしまった。


「ま……待て! 何だこれは、おれは震えちまってる!」


その臭いは、街の子ども達の匂いと、いつかの日、死んだ親戚が研究所へと運ばれていく時に嗅いだ死の臭いと、そして、


つい先程此処を通っていった、Lesser Dogの匂い。


瞬時に見張り小屋を飛び出し、彼は腰に提げていた双剣を引き抜き、身構える。


「だ、誰がいるんだ!?」


恐怖でガタガタと震え、荒く息を吐き出しているDoggoに吠えるように尋ねられた人間は、そちらにふいと目を向けて、



ただ、わらったまま、カッターナイフを振り上げた。

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