第2話 博麗の巫女
拝殿から覗くその瞳は獲物を狙う猛禽類のように鋭く、隣でぽけーっと空を眺めている人外少女とは恐ろしさの格が違った。
その恐ろしき瞳が捉えているのは、静哉の手に握られた2枚の1万円札。
しかし、霊夢(仮)にも分別はあるらしく、直接奪い取りに来る気配はない。
ただ穴が空くほど見つめられて、静哉の心が耐えられそうにないだけだ。
「じ、じゃあ2万円入れさせていただきます……」
静哉の手から2万円が離れる。二枚の札はヒラリヒラリと落ちていく。
そうして、賽銭箱に触れ確実に中へと落ちた瞬間——目にも留まらぬ速さで、可憐な少女が静哉の前に躍り出た。
「あなた、良い人ね! きっと御利益があるわ! この博麗神社の巫女が保証する!」
紅白の巫女服のような、それにしては腋が堂々と外気にさらされた奇怪な装束を着た少女は、静哉の手を握りぶんぶんと振った。
そこには先ほどの猛禽類の如き鋭さはなく、あるのは可愛げのある整った顔立ちの少女然とした表情だけだった。
「えっと、貴女がこの女の子の言う博麗霊夢さん?」
静哉が人外少女を前に押し出す。
「あら、ルーミアじゃない。あんたがこの人を連れてきてくれたの?」
「そうだよー」
「偉いわ!あんたにも御利益をあげちゃう!」
「えー、びんぼー神社のごりやくなんていらないよー」
「あんたとんでもなく失礼ね⁉︎」
「いたいー」
切れ味の鋭い本音に、霊夢は人外少女——ルーミアの頭をすぱーんと叩いた。
ルーミアが叩かれた頭をさする中、霊夢が思い出したように静哉に向き直る。
「ところであなた、ここの人間じゃないわよね?」
静哉は説明も無しに自分の境遇を言い当てられたことにひどく驚き、そして緩んでいた緊張を取り戻した。
「そ、そうなんですっ!気づいたら原っぱにいて!どうしたものかと悩んでいた時に、このルーミアちゃん? が助けてくれたんです!」
静哉が興奮気味にそう言うと、霊夢もまた驚いた。
「ルーミアに助けられたぁ? よく喰われたかったわね。コイツ、人喰い妖怪よ?」
「あっ、やっぱりですか。初対面で食べていいかと訊かれたので、なんとなくそんな気はしていたんですが……」
ルーミアの予想通りすぎる正体に、静哉はやはり濃厚プリンを与えて正解だったかと改めて安堵した。
「あの、俺は帰れるんでしょうか……?」
「さぁ? 私にそんなこと訊かれても困るわ。行く宛がないなら、しばらくはうちに泊めてあげるけど?」
「…………じゃあ、しばらくお世話になります」
静哉は霊夢の善意に甘え、しばらく居候させてもらうことを決意した。
「あっ、とりあえず財布に入ってるお金は全部差し上げます。これでどうか10日ほどは……」
静哉は霊夢の手を握り、有り金の10万円と890円をその小さな掌に載せた。
「ははっ、あんたはもういつまで居ても良いわよっ!」
載せられた普段見ぬ大金に霊夢は上機嫌になり、静哉を我が家に迎え入れた。
「放置かー。そーなのかー」
その場に取り残されたルーミアの悲痛な呟きは、霊夢の静哉を歓迎する言葉の前に消し飛んだのだった。
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