ハーメルン
俺はめーりんに会いに行く!
幕間 奮い立つ心

 紅魔館の二階テラスから、幼い少女が苦虫を噛み潰したような表情で敷地内を歩く美鈴達を睨んでいた。
 コウモリのそれと酷似した翼を背中に生やした、10歳程度の外見を持つ少女だ。
「——お嬢様」
 いつの間に現れたのか、銀髪のメイドがお嬢様と呼ばれる少女の後ろに控えていた。
「頭が足りないやつだとは思っていたけれど、まさか敵を笑顔で招き入れるほど馬鹿だとは思わなかったわ」
「今日くらいは居眠りをしないようにと言い付けたのですが、余計に酷いことになったようです」
「……まぁ、いい。計画に狂いはないわ」
 少女はそう言って、
「——ところで、この霧って人間に影響あるんじゃなかったかしら?」
「ええ、確実にあります。……あるはずなんですが」
 2人の眼に映るのは、美鈴と親しげに話す男。
「…………効いてる風には見えないわね。人里の方はどう?」
「先程見て回りましたが、目に見えて体調を崩す人間は確認できませんでした」
 メイドの言葉に少女が目を丸くする。
「えっ、ここの人間強すぎじゃない? もしかして私達、ここじゃ人間如きにも負ける最弱集団として扱われたりするのかしら……」
 少女はその細い二の腕を掴んで震えた。あっという間に少女の絶対的強者の仮面が剥がれる。
 少女は元来、人を傷つけたり嫌な思いをさせるのがあまり好きではなかった。
 しかし、そんなことは言っていられない。
 あの忌々しい太陽さえなければ、自分は外で自由に生きていけるのだ。
 だけど、もし自由を得たとして人間の方が圧倒的に強かったら? 館の者も嬲り殺しにされてしまったら?
 ——それでも、自分の心は自由を渇望している。
 そんな主人の心の葛藤を目の前で見てきたメイドは、恐怖で体が震えている少女の背中をさすった。
 触れるとそれは、自分よりも小さな小さな背中だった。
「大丈夫です、お嬢様。吸血鬼であるお嬢様が人間より弱いはずないじゃないですか。もっと自信を持ってください。ファイトです!」
「そ、そうよね! 私は最強の吸血鬼よね! 人間如きに負けるはずないわ! そうよ、私は最強よ!」
 メイドの励ましが功を奏し、折れかけていた少女の心がなんとか奮い立たされる。
「では、お嬢様。私はあの2人の人間を追い出しに行ってまいります」
 館内に静哉と霊夢が侵入したのを確認し、メイドが少女にそう告げて、またもや瞬時に消え去る。
「……うぅ、本当に大丈夫かしらぁ…………」
 その場に残った少女がメイドの励まし効果が消えて、心細さのあまり少量の涙を零したことは誰も知らない。

[9]前話 [1]後書き 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/1

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析